短答問題 刑法「罪刑法定主義」

 入門講座受講中の方または受講を終えた方、法学部在学中の方、力試しに問題を解いてみませんか。問題は2016年実施の「予備試験スタンダード短答オープン」からセレクトしています。科目は刑法、テーマは「罪刑法定主義」、講座実施時の正答率は76%でした。 

[問題]

 罪刑法定主義に関する次の1から5までの各記述のうち,正しいものはどれか。

1.罪刑法定主義には,「犯罪は,国民の権利・行動の自由を守るために成文法により明示されなければならない」という自由主義的要請のみが含まれている。

2.判例によれば,過失往来危険罪(刑法第129条)の客体たる「汽車」にガソリンカーも含まれると解することは,被告人に不利な類推解釈であって許されない。

3.判例によれば,判例を被告人に不利に変更し,当該事件に対してその解釈を適用することは,遡及処罰禁止の原則に反し許されない。

4.個々の犯罪について予定された刑を,その上限と下限の枠で示している相対的不確定刑は,罪刑法定主義に反し許されない。

5.罪刑法定主義の要請として,慣習法は直接の法源とはなり得ないが,成文の根拠がある限りは,構成要件の意味内容を慣習によって決定することは許される。

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[解答]

 正解は5。

 本問は,罪刑法定主義に関する基本知識を問うものである。罪刑法定主義の派生原理としては,刑罰法規不遡及の原則,慣習刑法の排除(肢5),絶対的不確定刑の禁止(肢4),類推解釈の禁止(肢2),明確性の原則,適正処罰の原則,判例の遡及的適用の禁止(肢3)等が挙げられるところである。各派生原則についての簡単な内容を押さえるとともに,その具体例を押さえておいて欲しい。

1.誤り。

 本記述は,罪刑法定主義には自由主義的要請のみが含まれるとする点で,誤っている。罪刑法定主義には,「犯罪は,国民の権利・行動の自由を守るために成文法により明示されなければならない」という自由主義的要請のみならず,「いかなる行為が犯罪であるかは国民自身がその代表を通じて決定しなければならない」という民主主義的要請が含まれている。なお,罪刑法定主義には従来から,①慣習刑法の排除,②遡及処罰の禁止,③絶対的不定期刑の禁止,④類推解釈の禁止等の派生原則があるとされるが,上記民主主義的要請としての法律主義が①に,自由主義的要請としての事後法の禁止が②に表れているとされる。(山口P.8~10。前田(総)P.48~9。条文・判例スタンダード(6)P.2。)

2.誤り。

 本記述は,被告人に不利な類推解釈であって許されないとしている点で,誤っている。類推解釈とは,刑罰法規の処罰対象と類似の性質を有する他の対象に対し,当該刑罰法規を,その文理の制約を超えて適用させることを意味する。このような解釈は,処罰範囲を無限定に拡大し,法的安定性を害すると考えられるため,罪刑法定主義の観点から許されていない。もっとも,刑罰法規の立法趣旨を考慮して,その文理を拡張して解釈する場合には,上記のようなおそれはないから,拡張解釈は許されている。そして,過失往来危険罪(刑法129条)の客体たる「汽車」に,単に動力の種類を異にするだけのガソリンカーも含まれると解することは,拡張解釈であって,許されるとされている(大判昭15.8.22)。なお,大量輸送機関である点で,バスも「汽車」と異ならないとして,バスを「汽車」に含まれると解することは,類推解釈であって許されないとされている。(山口P.11~2。前田(総)P.49。条文・判例スタンダード(6)P.3。)

3.誤り。

 本記述は,判例を被告人に不利に変更し,当該事件に対してその解釈を適用することは,遡及処罰禁止の原則に反し許されないとしている点で,誤っている。最判平8.11.18。判例は,被告人の行為当時の最高裁の解釈に従えば被告人の行為は適法であったにもかかわらず,原判決がこれを違法としたことが遡及処罰に当たるか否かが争われた事案において,「行為当時の最高裁判所の判例の示す法解釈に従えば無罪となるべき行為を処罰することが憲法39条に違反する旨をいう点は,そのような行為であっても,これを処罰することが憲法の右規定に違反しないことは,当裁判所の判例…の趣旨に徴して明らか」であるとしている。判例の結論に賛成する学説は,その理由として,法の解釈変更は,法自体の変更ではなく,本来の法の意味が正しい解釈によって発見されたことを意味するにすぎないということを挙げている。よって,判例を被告人に不利に変更し,当該事件に対してその解釈を適用することは,遡及処罰禁止の原則に反しない。(山口P.12~3。前田(総)P.53~5。条文・判例スタンダード(6)P.2。)

4.誤り。

 本記述は,相対的不確定刑は,罪刑法定主義に反し許されないとしている点で,誤っている。現行刑法は,それぞれの犯罪に関する刑を,上限と下限を決めた「枠」の形で示している。これを相対的不確定刑という。これに対して,刑の種類や分量を全く定めず,又は,刑の種類のみを定めて刑の分量を全く定めないものを絶対的不確定刑という。絶対的不確定刑は,刑罰を抽象的に規定するにすぎないことから,罪刑法定主義に反する。しかし,相対的不確定刑は,罪刑法定主義の趣旨に反せず許されるとされている。相対的不確定刑の例として,詐欺罪(刑法246条)についてみると,下限は懲役1月(刑法12条1項),上限は懲役10年と規定されている。なお,少年に対して刑を科す際には,刑の短期と長期を定めて言い渡す相対的不定期刑が認められている(少年法52条)。(前田(総)P.48。条文・判例スタンダード(6)P.3。)

5.正しい。

 罪刑法定主義の派生原則の1つとして,慣習刑法の排除(法律主義)が挙げられる。刑法の法源は,成文の法律であることを要し,その法律は,国会で制定される狭義の法律であることが要請される。したがって,本来的に成文法に根拠を持たず,内容が不明確である慣習や条理は,直接の法源となり得ない。その根拠としては,①民主主義の要請,②処罰が恣意に流れる危険の防止,③人々の行動予測可能性が奪われ,刑法の自由保障機能が害されることの防止,などが挙げられる。よって,罪刑法定主義の要請として,成文に全く根拠のない慣習法による処罰は許されない。もっとも,慣習刑法が排除されるといっても,慣習が刑法上全く意味を持ち得ないわけではない。例えば,保護責任者遺棄罪(刑法218条)の保護責任の根拠や,不真正不作為犯の作為義務の根拠など,成文に根拠がある限りは,構成要件の意味内容を決定することも許されることがある。したがって,本記述は正しい。(山口P.9~12。前田(総)P.48。条文・判例スタンダード(6)P.2。)