短答問題 民法「詐欺・強迫」

 入門講座受講中の方または受講を終えた方、法学部在学中の方、力試しに問題を解いてみませんか。問題は2016年実施の「予備試験スタンダード短答オープン」からセレクトしています。科目は民法、テーマは「詐欺・強迫」、講座実施時の正答率は86%でした。

[問題]

 詐欺又は強迫による意思表示に関する次のアからオまでの各記述のうち,判例の趣旨に照らし正しいものを組み合わせたものは,後記1から5までのうちどれか。

ア.Aがその所有する甲不動産をBに売却し,AからBへの所有権移転登記がされたが,詐欺を理由に当該売買契約を取り消した場合において,その後,Bが甲不動産をCに転売し,Cがその登記を備えたときであっても,Aは,その事実を知っていたにすぎないCに対して,甲不動産の所有権を対抗することができる。

イ.相手方の詐欺により意思表示をした後,善意の第三者が現れた場合には,相手方に対しても詐欺取消しを主張することができない。

ウ.債権者Aに対し,連帯債務者の一人であるBが代物弁済として動産を引き渡したことにより,債務の全額が消滅したが,その後,この代物弁済契約がBの詐欺による法律行為としてAに取り消された場合,他の連帯債務者Cは,詐欺の事実につき善意であれば債務を負担しない。

エ.民法上の強迫の主張が認められるためには,告知された害悪が客観的に重大か否かにかかわらず,表意者が畏怖し,その結果,意思表示をしたという関係が主観的にあれば足りる。

オ.抵当権者Aが債務者Bの強迫により当該不動産上の抵当権を放棄して設定登記を抹消し,その事情を知らない第三者Cが当該不動産上に権利を取得したが,その後,Aが強迫を理由にその放棄の意思表示を取り消した場合,Aは,Cに対して,回復登記をしなくても抵当権を対抗することができる。

1.ア イ

2.ア ウ

3.イ オ

4.ウ エ

5.エ オ

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[解答]

 正解は5。

 本問は,詐欺及び強迫に関する判例知識を中心に問うものである。詐欺及び強迫による意思表示は,意思の不存在とは異なり,表示に対応する内心的効果意思は存在するが,その意思の形成過程において瑕疵がある場合であり,この場合,法は意思表示を「取り消すことができる」としている(民法96条1項)。このように,詐欺と強迫はともに瑕疵ある意思表示として規定されているが,両者の大きな違いは,第三者保護規定の有無である。詐欺及び強迫の相違点を意識しつつ,確認しておいて欲しい。

ア.誤り。

 大判昭17.9.30(百選Ⅰ53事件)。判例は,取消しの遡及効を制限するという民法96条3項の趣旨からは,同項の「第三者」とは,取消しの遡及効の影響を受ける者,すなわち取消し前よりその行為の効力につき利害関係を有する第三者に限定して解すべきであり,取消し後に初めて利害関係を有するに至った者は同項の適用を受けないとしている。その上で,同判例は,不動産の売主が,詐欺による売買取消しの意思表示をしたが,いまだ取消しによる抹消登記をしない間に,第三者が買主から当該不動産につき権利取得を約した場合において,売主が取消しの効果を対抗して第三者の権利を否定するには,第三者の権利取得の登記前に取消しによる抹消登記をなすことを要するとしている。すなわち,取消しにより不動産の所有権は売主に復帰し初めから買主に移転しなかったものとなり,この物権変動には民法177条が適用されるとしている。そして,民法177条は,第三者の善意を要求していない(最判昭32.9.19)。よって,Cがその事実を知っていたにすぎない単なる悪意者であれば,登記を具備している以上,Aに優先するから,AはCに対して甲不動産の所有権を対抗することができない。したがって,本記述は誤っている。(条文・判例本(3)P.73,155)

イ.誤り。

 詐欺による意思表示は,取り消すことができる(民法96条1項)。この詐欺による意思表示の取消しは,善意の第三者に対抗することができないが(同条3項),この「対抗することができない」とは,権利者が一定の事情のために自分の権利を主張することができないという意味である。すなわち,法律行為の当事者間では取消しの効果を生ずるが,善意の第三者に対しては取消しの効果を主張し得ないということであるから,善意の第三者に取消しを対抗できなくとも,当事者間では取消しを主張することができる。したがって,本記述は誤っている。(条文・判例本(3)P.72~3)

ウ.誤り。

 大判昭7.8.9。判例は,連帯債務者の一人のした代物弁済契約が,詐欺による法律行為として取り消された場合には,その取消しの効果は他の債務者にも及ぶとしている。判例の結論に賛成する学説は,その理由として,この場合の他の連帯債務者は,詐欺による行為によっていわば間接的あるいは反射的に利益を得た者であって,詐欺による行為を前提として更に新たな別個の法律原因に基づいて直接の利害関係を取得したものではないから,民法96条3項にいう「第三者」には当たらないということを挙げている。よって,代物弁済契約の取消しの効果が他の連帯債務者にも及び,他の連帯債務者は,詐欺の事実につき善意であっても,債務を負担する。したがって,本記述は誤っている。(条文・判例本(3)P.73)

エ.正しい。

 最判昭33.7.1。判例は,「強迫ないし畏怖については,明示若しくは暗黙に告知せられる害悪が客観的に重大なると軽微なるとを問わず,苟くもこれにより表意者において畏怖した事実があり且右畏怖の結果意思表示をしたという関係が主観的に存すれば足りる」としている。よって,民法上の強迫の成立には,表意者が畏怖した結果,意思表示をしたという関係が主観的にあれば足り,告知された害悪の重大性は問われない。したがって,本記述は正しい。

オ.正しい。

 大判昭4.2.20。判例は,強迫により抵当権を放棄しその登記を抹消した者が,後日,その放棄を取り消したときは,回復登記(いったんは存在したものの後に消滅した登記を回復する登記)をしていない間であっても,抹消登記後,意思表示の取消し前にその抵当不動産の上に物権を取得した第三者に対して抵当権を対抗することができるとしている。判例の結論に賛成する学説は,その理由として,民法は詐欺及び強迫による意思表示の取消しを認めているが,強迫による被害を重視し,詐欺の場合における第三者の詐欺(民法96条2項)や善意者の保護(民法96条3項)の規定は,強迫の場合には適用されないということを挙げている。本記述は強迫の事案であるから,Cは取消し前の善意の第三者ではあるものの,民法96条3項の適用を受けない。よって,AはCに対して,回復登記をしなくても抵当権を対抗することができる。したがって,本記述は正しい。(条文・判例本(3)P.75)

 以上により,正しい記述はエとオであり,したがって,正解は肢5となる。以上全体につき,内田ⅠP.77~90。川井(1)P.185~195。