【連載】基本三法【憲法・民法・刑法】の基礎知識 第2回 答案の書き方のポイント 実践編

 各科目の学習作法を習得した後に訪れるのは,学部の定期試験です。そこで本連載では,司法試験予備試験及び法科大学院入試対策も兼ねて,憲法・民法・刑法の基本三法の頻出論点に関する基礎知識を紹介させて頂きます。まずは,週2回程度の更新で,答案の書き方のポイント2回,民法総則3回,憲法人権論3回,刑法総論3回を掲載致します。

第2回 答案の書き方のポイント 実践編

 各科目の頻出論点に関する基礎知識を紹介する前に,平成29年司法試験予備試験合格者のAさん(平成30年法科大学院(既修)修了,平成30年司法試験受験)が,答案の書き方のポイントについて寄稿してくれました。今回は実践編として,平成30年司法試験論文式試験民事系科目第1問(民法)設問1のAさん作成答案を掲載します。

【Aさん作成解答例】

第1 設問1

1 BのAに対する売買代金支払請求に対し,これを拒むAの主張は同時履行の抗弁権(民法(以下,法令名略。)533条)にもとづくものと考えられる。

 これに対して,Bとしては危険負担の債権者主義により,松茸引渡債務の債権者たるAが危険を負担するから,なおAは代金債務を負担すると反論する。一方でAは,危険負担の債務者主義により代金支払債務も消滅すると主張すると考えられる。

 そこで,536条1項の債務者主義及び534条2項・1項の債権者主義のいずれが妥当するか問題となる。536条は「前二条に規定する場合を除き」適用されるから,534条が適用されるかを以下検討する。

⑴ まず,本件売買契約の目的物たる松茸は種類物であるから,本契約は「不特定物に関する契約」である。そして,534条2項は401条2項の規定により物が特定された時から,534条1項を適用するとしているところ,本契約の松茸が特定したといえるか問題となる。

 この点,401条2項の趣旨は,無限の調達義務から債務者を解放することにあるから,特定のために「必要な行為を完了」(401条2項)したとは,給付物を不特定物の中から分離し,準備し,その旨を通知することをいうと考える。

 本件では,21日にBはCとともに,松茸を収穫し乙倉庫に運び入れ,約定に沿う5キログラムに箱詰めしたから分離したといえる。また,箱詰めにより引渡準備が整えられているから準備したといえる。そして,その旨Aに電話で連絡し,Aの午後8時ころに引き取る旨を了承しているから,通知したといえる。

 したがって,Bは松茸の特定に「必要な行為を完了」したといえ,534条2項により,534条1項が適用され得ることとなる。

⑵ そして,本件売買契約は,上記の通り「特定」された松茸について,その所有権をAに移転させるとの「物権…の移転」を目的とする「双務契約」である。そこで,534条1項により,債務者Bの「責めに帰することができない事由」により松茸が滅失・損傷した場合には,その危険は債権者Aが負担する。

⑶ では,本件でBに帰責事由が認められないか。

 この点,「債務者の責めに帰すべき事由」(415条後段参照)とは,債務者の故意・過失または信義則上これと同視すべき事由をいうと考える。そして,債務者が履行補助者を利用して利益を得ているときは,これに伴うリスクも負担すべきであることから,信義則上これと同視すべき事由には,履行補助者の故意・過失が含まれると考える。

 本件において,Cは,Bが松茸の収穫のために雇っている者であるから,松茸の引渡債務についての履行補助者に当たる。

 そして,たしかにBは近隣で農作物の盗難が相次いでいたことからCに対し乙倉庫を普段よりもしっかり施錠するように指示した。実際にCは21日に普段簡易な錠で施錠されているだけの乙倉庫に対して強力な倉庫錠を使用し二重に施錠した。このことから,B及びCに帰責事由は無いとも思える。

 しかし,Bは21日に引き取りに行けないとの電話連絡をAから受けてこれに了承し,22日午前7時の電話で午前10時頃に引き取りたいとの申し出に対し承諾しているところ,Aが22日に乙倉庫に引き取りに到着するまでの間,B・Cは松茸の善管注意義務及び引渡債務を従前通り負っているといえる。それにもかかわらず,Cは22日午前7時頃Bの指示を忘れて普段通りの簡易な施錠のみで乙倉庫を離れており,これにより松茸が盗難されたところ,Cに過失が認められる。

 したがって,履行補助者Cに過失が認められるため,債務者Bに帰責事由が認められる。

⑷ よって,Bの責めに帰することのできない事由により松茸が滅失・損傷したといえず,534条1項が適用にならないと思われる。

2 もっとも,Bは,仮に約定通り21日にAが引き取りに来ていれば問題なく松茸を引き渡せたはずであるところ,一度きちんと松茸を用意した以上,松茸引渡債務の履行不能はAの受領遅滞(413条)後のものであり,Bの帰責事由は認められないと反論すると考えられる。

   そこで,Aの受領遅滞が認められるか,以下検討する。

⑴ 受領遅滞の法的性質については,債務不履行責任であると考えるところ,Aに受領義務があるか,まず問題となる。

 この点,本件では,Aは21日に,Bに対し引取りに行けないため翌朝改めて連絡すると伝え,翌22日午前7時の電話で午前10時頃に松茸を引き取る旨Bに連絡し,Bに松茸の保管を継続させているため,信義則上の受領義務を負うと考えるべきである。

⑵ 次に,受領遅滞を債務不履行責任と考えると,債権者の帰責事由が必要となるところ, Aに帰責事由が認められるか問題となる。

 たしかに,Aは当初,本件売買契約において21日に引き取る旨約定していたにもかかわらず,21日に引き取ることはなかった。しかし,Aは21日に引き取ることができない旨Bに連絡し,これをBは承諾している。さらに,Aが21日に引き取ることが出来なかったのは甲トラックが無くなっていたからであり,またAは自宅周辺で甲トラックを探したが見つからなかったのだから,Aには故意・過失が認められない。

   したがって,Aに帰責事由が認められない。

⑶ よって,Aの受領遅滞が認められないから,上記反論は認められず,なおBの帰責事由が認められる。

3 以上より,534条2項・1項が適用されず,536条が適用されるため,危険負担の債務者主義によりAの代金債務も消滅し,Bの代金請求は認められない。

                                      以上

 

【Aさんのコメント】

 実践編として,平成30年司法試験論文式試験民事系科目第1問(民法)設問1の答案例を提示いたします。なお,試験本番では制限時間が非常にタイトで,理論的なところを考える暇がありませんでしたので,理論的な正確性は保証することができません。私自身,ここはこういうことだったのに,と後悔している部分は多々あります。論点の理解については,後に出るであろう出題趣旨および各予備校の解答速報を参照していただければと思います。

 私の答案例では,問題の所在を示す問題提起の仕方(特に司法試験論文本試験では,当事者の主張の法的意義から問題の所在を示すことが多いです。),すっきりとした規範の書き方,そして何より,多くの事実をピックアップし,交通整理して,狙った結論に着地させるあてはめの方法を学んでいただきたいと思います。私の答案例は叩き台ですから,批判的な目線も持って,「こうすればより良い答案になる」と考えながら参考にしてもらえれば幸いです。

 

【本ブログ担当者より】

 今回Aさんが解答例を示してくれた平成30年司法試験論文式試験民事系科目第1問(民法)設問1は,法律学習初学者の方には,若干高度な事案であったものと思います。ただ本問は,民法の古典的な論点を正面から問うた興味深い事例であり,本問に関連する知識をつけて頂くというのではなく,あくまで答案作成のイメージを習得して頂くのに最適な事例と思われることから,敢えて採り上げさせて頂きました。