
各科目の学習作法を習得した後に訪れるのは,学部の定期試験です。そこで本連載では,司法試験予備試験及び法科大学院入試対策も兼ねて,憲法・民法・刑法の基本三法の頻出論点に関する基礎知識を紹介させて頂きます。まずは,週2回程度の更新で,答案の書き方のポイント2回,民法総則3回,憲法人権論3回,刑法総論3回を掲載致します。
第4回 民法総則「錯誤」
現行民法95条は,「意思表示は,法律行為の要素に錯誤があったときは,無効とする。ただし,表意者に重大な過失があったときは,表意者は,自らその無効を主張することができない。」と規定しています。
これは,表示上の効果意思と表意者の意図するところに食い違いがある場合に,表意者がその食い違いを知らずに意思表示をし,かつそれが要素の錯誤に当たる場合にのみ,その意思表示を無効とすることにより,表意者保護と取引安全の調和を図る趣旨です。
この意思表示の錯誤は,「意思表示の生成過程のどの段階に錯誤があるかによって,『動機の錯誤』と『表示行為の錯誤』に分かれる」(四宮和夫・能見善久『民法総則』(弘文堂,第9版,2018)P.247)とされています。そして,動機の錯誤の例としては,「真実はピカソの絵ではないのに,ピカソの絵だと思って買う場合」(前掲・四宮・能見P.250)などが挙げられ,他方,表示行為の錯誤の例としては,「カナダ・ドルとアメリカ・ドルの違いは理解しているが,カナダ・ドルと書くべきところ,うっかりアメリカ・ドルと書いてしまった場合で,いわゆる誤記の場合」(前掲・四宮・能見P.248)などが挙げられます。
そして,判例が蓄積されている動機の錯誤の方が,学部試験や司法試験での出題可能性が高いと思われます。なお,動機の錯誤が問題となった近時の興味深い事例として,東京地判平24.7.26(判時2162-86)があり,同判決の判例批評を現司法試験及び予備試験考査委員である佐久間毅教授が執筆されているので(同「美術品売買における目的物の真贋と錯誤」法律時報別冊私法判例リマークス47(2013<下>)P.10~13),参考にされるとよいでしょう。
なお,錯誤は,平成29年民法(債権法)改正で大きく改正される分野です。下記で改正法にも対応した参考文献をお示しした上で,原孝至基礎講座のテキストである現行法と改正法を併記した『新スタンダードテキスト民法Ⅰ』の該当部分を掲載(PDF)致します。本ブログ読者の皆様の学習にお役立て頂ければ幸いです。
・佐久間毅『民法の基礎1 総則』(有斐閣,第4版,2018)(出版社HP書籍紹介参照)
P.144~163