【連載】基本三法【憲法・民法・刑法】の基礎知識 第5回 民法総則「無権代理と相続」

 各科目の学習作法を習得した後に訪れるのは,学部の定期試験です。そこで本連載では,司法試験予備試験及び法科大学院入試対策も兼ねて,憲法・民法・刑法の基本三法の頻出論点に関する基礎知識を紹介させて頂きます。まずは,週2回程度の更新で,答案の書き方のポイント2回,民法総則3回,憲法人権論3回,刑法総論3回を掲載致します。 

第5回 民法総則「無権代理と相続」

 

 無権代理の場合に,「追認と似た状況が生じうる場合がある。それは,無権代理人と本人の間で相続が生じた場合である」(内田貴『民法Ⅰ総則・物権総論』(東京大学出版会,第4版,2008)P.170)。すなわち,相続に関する民法896条のもとで,被相続人と相続人の地位が融合するかが問題となっています。

 そして,無権代理と相続の事例は,①無権代理人が本人を相続した場合,②本人が無権代理人を相続した場合,③無権代理人と本人の双方を相続した場合の3つがあります(内田・前掲書P.170~179)。

 この問題の処理に関しては,資格融合説(内田・前掲書P.171~2参照),完全併存説(内田・前掲書P.172参照),信義則説(内田・前掲書P.173参照)があります。受験対策上は,通説といわれる信義則説に依拠するとよいでしょう。

 また,無権代理と相続に関する諸判例の中で, 本人が無権代理行為の追認を拒絶した後に無権代理人が本人を相続した場合における無権代理行為の効力に関する最判平10.7.17(民集52-5-1296,下記裁判所HP裁判例情報参照)について,現司法試験及び予備試験考査委員である佐久間毅教授が判例批評を執筆されています(同「判批」法学教室221号P.120~121)。同判批の争点欄によると,「①無権代理行為の追認拒絶の法的意義。②本人を相続した無権代理人による,本人のした追認拒絶援用の可否。③第三者が無権代理人・本人を相次いで相続した場合における,無権代理行為の効力。④意思無能力者を本人とする表見代理の成否。」と記載されています。この判例だけでも司法試験や予備試験の論文式試験問題1問分の素材となり得る興味深い判例です。是非参考にされるとよいでしょう。

 なお,下記で参考文献をお示しした上で,原孝至基礎講座のテキストである現行法と改正法を併記した『新スタンダードテキスト民法Ⅰ』の該当部分を掲載(PDF)致します。本ブログ読者の皆様の学習にお役立て頂ければ幸いです。

 【参考文献】

・内田貴『民法Ⅰ総則・物権総論』(東京大学出版会,第4版,2008)(出版社HP書籍紹介参照

 P.170~179

  ・佐久間毅『民法の基礎1 総則』(有斐閣,第4版,2018)(出版社HP書籍紹介参照

   P.301~314

・沖野眞已ほか編著『民法演習サブノート210問』(弘文堂,2018)(出版社HP書籍紹介参照

 P.53~4

  ・最判平10.7.17(民集52-5-1296)(裁判所HP裁判例情報参照) 

ダウンロード
原孝至・基礎講座 教材
新スタンダードテキスト民法ⅠP.134~141PDF.pdf
PDFファイル 139.2 KB