大学の法学部授業が始まった,法律学の入門書も読み終えたなど,本格的に法律学の勉強を始めたいという方のために,本コーナーでは,科目別の勉強方法の特色や受験生の多くが使用する基本書などの最新情報を提供致します。第1回は,「民法学習」の作法です。

第1回「民法学習」の作法
1 民法の特色
まず,民法とは何かと問われて一言で解答するのは難しいものの,現司法試験及び予備試験考査委員である佐久間毅教授はその著書で実質民法の特徴につき「第1に,実質民法は,支配・従属の関係にない対等な人びと(私人)どうしの間に存する権利義務の関係(法律関係)を一般的に規律の対象にする。第2に,私人の間に生ずる法律関係の内容を定める。」(同『民法の基礎1 総則』(有斐閣,第4版,2018)P.2)とされております。
また,日本の民法典は,ドイツ民法典の採用する法典編纂形式であるパンデクテン方式を受け継いでおります。このパンデクテン方式の特徴は,「多くの生活事象について,ある観点から共通性をみつける。その共通性を基礎に,事柄の具体性を捨象して,ひとまとまりの抽象的な規定群を用意する。そして,それによって法典の体系化を図る。」(佐久間・前掲書P.7)点にあります。
そして,民法学の学問領域は,①民法総則,②物権法,③担保物権法,④債権総論,⑤債権各論,⑥親族法,⑦相続法に分かれます。この内,②から⑤は財産法,⑥⑦は家族法といわれます。また,②③は広い意味での物権法,④⑤は債権法といわれます。さらに,⑤は契約法と法定債権(事務管理・不当利得・不法行為)の分野に分かれます。
2 債権法改正への対応
平成29年5月26日,民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)が成立しました(同年6月2日公布)。いわゆる債権法改正です。今回の改正は,一部の規定を除き,平成32年(2020年)4月1日から施行されます。そして,平成32年以降の司法試験及び予備試験は,改正後の関係法令に基づいて出題されることとなります。
そこで,これから民法の学習を始められる方は,現行法と改正法のどちらを学習すればよいかと迷われるかと思います。この点,司法試験等の受験時期や将来の実務を見据えて改正法のみを学習すればよいとの意見もあり,これを前提に改正法のみを解説した基本書もあります。しかし,改正法施行前に実施される各試験は,現行法による出題で実施されますので,これにチャレンジする場合は,現行法を勉強しておく必要があります。また,現行法を一通り勉強した上で,改正法を見ることは非常に有用と考えられます。なぜならば,現行法の特色が浮き彫りになるのと同時に改正理由が分かり,現行法の理解も,改正法の理解も深まるという相乗効果が期待できるからです。以下,2人の著名な民法学者の文献から引用させて頂きます。
・中田裕康教授(法制審議会民法(相続関係)部会委員,元司法試験考査委員)
「…改正民法は現行民法と断絶したものではなく,現行民法のもとでの問題を解決するためのものである。学説としては,新法を歴史と比較法のなかに位置づけつつ,その解釈のあり方を示すことが求められる。本書は,現行民法と改正民法における契約法の規律を叙述するとともに,学説に求められる上記の課題に応えることをも目指している。…」(同『契約法』(有斐閣,2017)P.12)
・佐久間毅教授(現司法試験及び予備試験考査委員)
「…法律の改正は,改正前の法状況を踏まえてされる。そのため,改正法の規定を理解するためには,改正前の判例または学説と比較する必要がある。これは,今回の民法改正についても,また,民法をこれから学ぶ者にとっても同じである。…」(佐久間・前掲書第4版はしがき)
3 基礎講座受講の勧め
下記の「民法の各領域におけるお薦めの基本書」で紹介した7冊の頁数の合計は,2980頁(本文のみ)となります。これを独学で読破して理解するのは,中々困難かと思います。そこで,初学者の方は,学習効率を高めるために受験指導校の基礎講座を受講されることを強くお勧め致します。
ちなみに,辰已法律研究所の「司法試験 原孝至・基礎講座 2018年」は,法科大学院修了・新司法試験合格・弁護士の原孝至先生が,予備試験の法律科目全科目(法科大学院入試の法律科目を含む。)を一貫して指導する新時代の基礎講座です。
また,今期の原孝至・基礎講座の民法のテキストである『新スタンダードテキスト民法1』及び『同2』では,上記の中田裕康教授,佐久間毅教授の見解と同様に,現行の民法の記述をそのまま残し,改正法の記述を付け加えるなど,学習効率を高める配慮をしております。
まずは,本格講義に先立つ原孝至・基礎講座「法律学習導入講義」民法をご覧の上,ご検討頂ければ幸いです。
■ 司法試験 原孝至・基礎講座「法律学習導入講義」民法サンプル
動画・教材の続きは、下記リンク先から「無料」でご覧いただけます。
司法試験 原孝至・基礎講座「法律学習導入講義」通信部WEBオンライン申込はこちら
司法試験 原孝至・基礎講座「法律学習導入講義」通信部DVDオンライン申込はこちら
【ご参考】 民法の各領域におけるお薦めの基本書
内容の分かり易さ,通説・判例を基調としているか,辰已合格体験記での紹介,改正法への対応,著者の司法試験及び予備試験考査委員経験の有無,法曹実務家の意見などを総合考慮した結果,平成30年5月時点では,民法の各領域において,以下の基本書がベストかと思います。参考にして頂ければ幸いです。
なお,書名に設定しているリンクのリンク先は出版社の当該書籍の紹介ページです。
■ 民法総則
著者は現司法試験及び予備試験考査委員です。
民法総則分野について基本原理から丁寧に解説しており,非常に分かりやすい本です。法律を学習するに際しては,抽象的な法理論をきちんと理解する必要があるのですが,抽象論を文章で読んでも中々腑に落ちない点が残ります。この点,同書は,簡単なケースを設定し,そのケースに沿って問題点を説明したうえで,解決に向けた解釈,見解の対立点を記述するという手法を採っており,具体論から抽象論へと非常に理解しやすい構成となっています。
また,発展的な問題については別コラムにするなど,学習の進度に沿って効率的に学習できるように配慮もなされております。主張・立証責任を中心に要件事実論にも言及しており,情報量も十分です。
そして,記述も平易で読みやすく,最初の1冊として利用することもできます。司法試験及び予備試験受験生に非常に人気の高い基本書です。
■ 物権法
上記の総則と同様の手法で物権法(担保物権を除く)の領域を説明したのが同書です。特徴は総則と同様で,物権法の理解を深めるには同書が最適だと思われます。
■ 担保物権法
民法学における重要分野ではあるのですが,債権総論や物権法等の他分野の理解も必要とされ(発展的な話になると執行法等も絡んできます),中々理解しにくい領域が担保物権であると思います。
そんな担保物権が苦手な方におすすめなのが,松井宏興教授の『担保物権法』です。この本は,各トピックについて,簡単な設例を設けたうえで,その設例に沿った形で,各種トピックについて法的な問題点,解釈といった必要事項を分かりやすく説明しています。特に担保物権は具体的なケースを前提に考えなければ理解しにくい問題がたくさんあるので,同書のような記述形態は理解しやすい構成といえます。
そして,情報量も必要な限度にとどめられており,まずはこの1冊から学習を始めるのがよいと思われます。
■ 債権総論
著者は,法制審議会民法(相続関係)部会委員,元司法試験考査委員です。
様々な概念が登場し,苦手な受験生が多いのが債権総論ではないでしょうか。この領域でおすすめなのが中田裕康教授の『債権総論』です。頁数が非常に多い本ではありますが,基本原理や必要であればその条文の起草過程から丁寧に解説しており,分かりやすい本です。また,発展的な問題も取り扱ってはいますが,そういった問題は別コラムでまとめられておりますし,項目の立て方も非常に分かりやすいので,発展的な問題はひとまず置いておいて,基本的な事項のみを拾って読んでいけば大丈夫です。
そして,同書は,学習していくうえで生じる疑問や試験問題を解いていて生じる疑問について調べる際の辞書的な役割も十分にこなせる本ですので,学習段階を問わず,常に近くに置いておくとよいでしょう。
なお,同書の第3版は,今回の債権法改正の中間試案までを紹介しております。改正法を含めた改訂がされるまでは,取り急ぎ中田裕康・大村敦志・道垣内弘人・沖野眞已『講義 債権法改正』(商事法務,2017)で補充されるとよいでしょう。
■ 債権各論(契約法)
中田裕康教授の『契約法』も,上記『債権総論』と同様にページ数が非常に多い本ではありますが,基本原理や必要であればその条文の起草過程から丁寧に解説しており,分かりやすい本です。
まず,今回の債権法改正についても現行法と対比する形で解説されており,改正法・現行法の双方を効率よく学習することができます。
また,発展的な問題についても言及されており,辞書的に扱うこともできます(もちろん別コラムでまとまっており,学習の初期段階においては読み飛ばすこともできます。)。
そして,債権総論と同様に,学習の段階に応じて使い方を変えることで非常に効率よく学習できる良書であると思われます。
■ 債権各論(法定債権:事務管理・不当利得・不法行為)
著者の一人である大久保邦彦教授は,平成28年・同29年司法試験及び予備試験考査委員です。
契約以外の債権・債務の発生原因である事務管理・不当利得・不法行為(法定債権)については,リーガルクエストの『事務管理・不当利得・不法行為』がお薦めです。これらは,要件自体も抽象度が高く,分かりにくい領域ですが,同書は記述が平易で読みやすいです。情報量も必要十分なので,受験生向きのテキストといえるのではないでしょうか。
なお,今回の債権法改正に関しては,上記の有斐閣HP同書書籍紹介上の補遺で対応しています。
■ 家族法
民法の学習で一番最後に学習することが多く,受験生全体において手薄になりがちな領域が家族法(親族・相続)ではないでしょうか。しかし,短答式試験において必ず出題されるうえに,論文式試験でも時々その知識が必要となるなど,合格のためには学習しておくことが必要な領域であるといえます。
本書は,コンパクトな記述にまとまっており,表現も平易なのでお薦めです。また,情報量としても司法試験に対応するという観点からは十分と思われます。
〈判例集について〉
なお,上記の基本書の他,判例集としては,下記のものが最適です。
・潮見佳男・道垣内弘人編『民法判例百選Ⅰ 総則・物権』(有斐閣,第8版,2018)
・窪田充見・森田宏樹編『民法判例百選Ⅱ 債権』(有斐閣,第8版,2018)
・水野紀子・大村敦志編『民法判例百選Ⅲ 親族・相続』(有斐閣,第2版,2018)