大学の法学部授業が始まった,法律学の入門書も読み終えたなど,本格的に法律学の勉強を始めたいという方のために,本コーナーでは,科目別の勉強方法の特色や受験生の多くが使用する基本書などの最新情報を提供致します。第3回は,「刑法学習」の作法です。

第3回「刑法学習」の作法
1 刑法学の特色
刑法の意義に関しては,山口厚『刑法』(有斐閣,第3版,2015)P.3の以下の記述に要約されているものと思われます。
「…刑法(刑罰法規,刑罰規定ともいう)とは,いかなる行為が犯罪であり,それに対していかなる刑罰が科されるかを規定した法である(実質的意義の刑法)。
…本書における叙述の出発点としては,犯罪とは『それに対して刑罰が科されるべき行為』であるとしておくことで足りるであろう。」
また,刑法解釈論は,刑法総論と刑法各論に分かれるところ,山口・前掲書P.4では,以下のように説明されています。
刑法総論は,「およそ犯罪となるために必要である一般的な成立要件を明らかにすることを目的とする…」。刑法各論は,「刑法総論において明らかにされた一般的な成立要件を前提としつつ,個別の犯罪における固有の成立要件を明らかにすることを目的とするものである…」。
さらに,刑法は,刑法総論の実質的違法性の理解に関する結果無価値論と行為無価値論の対立(山口・前掲書P.57~8参照)のように,学説の対立が激しい科目です。刑法学説の対立に関しては,著名な刑法学者である故・団藤重光先生と故・平野龍一先生のウィキペディアの記事で概観できます。
・団藤重光(ウィキペディア)
・平野龍一(ウィキペディア)
2 現行司法試験及び予備試験論文式試験における特徴
旧司法試験の論文式試験では,概ね第1問が刑法総論から,第2問が刑法各論から出題されておりました。
これに対して,現行司法試験及び予備試験では,刑法は1問のみ,概ね刑法総論と刑法各論の双方を融合した問題が出題されております。
そして,設問形式は,「以下の事例に基づき,甲及び乙の罪責について論じなさい(特別法違反の点を除く。)。」(平成29年予備試験論文式試験刑法)などとなっており,基本的な論点などの「基本的理解と事例への当てはめが論理的一貫性を保って行われていることが求められる。」(同法務省発表の出題趣旨)とされております。
・平成29年司法試験予備試験論文式試験問題と出題趣旨(法務省HP)
しかし,先日実施された平成30年司法試験論文式試験刑法の設問文では,「次の【事例】を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問3〕までについて,具体的な事実を指摘しつつ答えなさい。」との冒頭の設問があり,各設問の一部では反論の記載も求められており,出題傾向に若干の変化が見られます。
・平成30年司法試験問題論文式試験刑事系科目(法務省HP)
いずれにしろ,基本的な論点などの「基本的理解と事例への当てはめが論理的一貫性を保って行われていることが求められる。」ことには変わりなく,条文・判例知識の他に,著名な学説知識も押えていくことが必要でしょう。
3 基礎講座受講の勧め
司法試験及び予備試験にチャレンジされる方は,上記の刑法学の特色を踏まえつつ学習効率を高めるために,受験指導校の基礎講座を受講されることを強くお勧め致します。
ちなみに,辰已法律研究所の「司法試験 原孝至・基礎講座 2018年」は,法科大学院修了・新司法試験合格・弁護士の原孝至先生が,予備試験の法律科目全科目(法科大学院入試の法律科目を含む。)を一貫して指導する新時代の基礎講座です。
まずは,本格講義に先立つ原孝至・基礎講座『法律学習導入講義』憲法をご覧の上,ご検討頂ければ幸いです。
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【ご参考】 刑法のお薦めの基本書・参考書
書名に設定しているリンクのリンク先は出版社の当該書籍の紹介ページです。
著者は,刑法学の第一人者であり,東京大学名誉教授で元司法試験及び予備試験の考査委員,前司法試験委員会委員長で,現在最高裁判所判事です。
同書は,通称「青本」と呼ばれ,「刑法総論・各論を1冊にまとめた,刑法の第一人者によるテキスト。判例を基礎とした客観的な姿を示すことにより,刑法の解釈と構造の理解が深まる。…」(上記有斐閣HP書籍紹介)とされ,刑法学習者の圧倒的人気を誇っております。
なお,平成29年刑法改正に関しては,上記有斐閣HP書籍紹介上の補遺で対応しています。
学説の対立が激しい刑法学にあって,判例・通説中心に極めて分かりやすく解説しており,設問も豊富で,司法試験及び予備試験受験生,法科大学院生,法学部生にとって人気急上昇中のテキストです。刑法総論のⅠと刑法各論のⅡの2冊を併せて1000頁を超えますが,その分かり易さ,内容の充実度から,一冊目のテキストにしてもよいと思います。
なお,著者の一人である大塚裕史教授は,辰已法律研究所で,「刑法因果関係論の書き方(危険の現実化の判断枠組み)」と題する講義を御担当されております。
・「刑法因果関係論の書き方(危険の現実化の判断枠組み)」(講義案内)
〈判例集について〉
なお,上記の基本書などの他,判例集としては,下記のものが最適です。
・山口厚・佐伯仁志編『刑法判例百選Ⅰ』(有斐閣,第7版,2014)
・山口厚・佐伯仁志編『刑法判例百選Ⅱ』(有斐閣,第7版,2014)