大学の法学部授業が始まった,法律学の入門書も読み終えたなど,本格的に法律学の勉強を始めたいという方のために,本コーナーでは,科目別の勉強方法の特色や受験生の多くが使用する基本書などの最新情報を提供致します。第6回は,「商法・会社法学習」の作法です。

1 会社法の特色
司法試験の商法は,大きく分けて,商法総則・商行為法,会社法,手形法・小切手法の領域に分かれます。今回は,商法の中で最も比重の大きい会社法について,その学習作法を紹介致します。
まず,会社法の意義に関しては,伊藤靖史・大杉謙一・田中亘・松井秀征『リーガルクエスト会社法』(有斐閣,第4版,2018)P.9の部分の以下の記述に要約されているものと思われます。
「…『会社法』は,通常,会社の利害関係者の利害の調整のためのさまざまなルールを指している(実質的意義の会社法)。そのようなルールを定める法律のうち,最も重要なのが,会社法(平成17年法律86号)である(形式的意義の会社法)。…
…実質的意義の会社法は,次の特徴を有する。すなわち,それは,事業活動の主体(単位)である企業が,会社という法的形態を利用する場合の,その組織や運営について定めるルールである。そして,そのルールは,会社をめぐる利害関係者の利害の調整を主な目的とする…。」
また,会社の中でも最も多い株式会社の特徴として,伊藤ほか前掲書P.18~20は,「所有と経営の分離」「株主の有限責任」「株式の譲渡性」「機関の分化」を挙げ,「…株式会社のルールの根底には,株主の個性(誰が株主となっているか)は会社経営や他の株主の利益にはあまり影響を与えず,株主は出資によって会社に貢献する,との考えがある。」とまとめています(P.20)。
なお,会社法は,条文も細かく,改正の頻度が多いので,条文対策が学習の鍵となります。
2 現行司法試験及び予備試験論文式試験における特徴
旧司法試験の論文式試験では,長年第1問が会社法,第2問が手形法・小切手法から(時折,商法総則・商行為法から)出題されておりました。事例問題がほとんどでしたが,時折説明問題も出題されました。
これに対して,現行司法試験及び予備試験では,商法は1問のみ,事例問題が出題されております。
まず,司法試験の方ですが,平成30年民事系科目第2問(商法)は,会社法からの出題でした。
・平成30年司法試験論文式試験問題系民事系科目(法務省HP)
他方,平成29年の予備試験の方も,会社法から出題されております。また,年によっては,会社法と手形法・小切手法の組合せなどもあります。
・平成29年司法試験予備試験論文式試験問題と出題趣旨(法務省HP)
また,問われるのは,株式会社の設立,株式,株主総会,役員等の義務と責任,資金調達,組織再編などの主要論点が多く,当該論点における基本的な条文・判例の知識・理解が中心です。
3 基礎講座受講の勧め
司法試験及び予備試験にチャレンジされる方は,上記の会社法の特色を踏まえつつ学習効率を高めるために,受験指導校の基礎講座を受講されることを強くお勧め致します。
ちなみに,辰已法律研究所の「司法試験 原孝至・基礎講座 2018年」は,法科大学院修了・新司法試験合格・弁護士の原孝至先生が,予備試験の法律科目全科目(法科大学院入試の法律科目を含む。)を一貫して指導する新時代の基礎講座です。ご検討頂ければ幸いです。
【ご参考】 会社法のお薦めの基本書・参考書
書名に設定しているリンクのリンク先は出版社の当該書籍の紹介ページです。
定価(本体2500円+税)
著者は元司法試験及び予備試験の考査委員であり,現司法試験委員会委員長です。同署は,「新しい会社法の全体像を簡潔にわかりやすく解説した比類なきスタンダード・テキスト。」(出版社HP書籍紹介)とされ,1年に1度改訂が行われ常に最新の情報を提供している他,条文・判例知識がコンパクトにまとめられており,特に予備試験短答式試験対策としては最強の1冊といえます。
定価(本体2,900円+税)
著者の1人である松井秀征教授は,現司法試験及び予備試験の考査委員です。同書は,「絶大な人気を誇る大好評のスタンダードテキスト。」(出版社HP書籍紹介)とされ,受験生の圧倒的支持を得ています。時折ケースを用いて分かりやすく説明しています。また,今回の改訂で,短答・論文知識の多くが補充されました。
定価(本体2800円+税)
「『なぜそのように規定されているのか』という初版刊行のコンセプトはそのままに,初版発行後に公表された裁判例を補充したほか,分かりにくいところは,よりやさしく!大切なところはもっと詳しく!という読者からの声に応えました。…」(出版社HP書籍紹介)とされる通り,条文や諸制度に関する理由付けが豊富でかつ、図表も充実しており非常に分かりやすい内容となっています。上記の『リーガルクエスト会社法』の対抗馬といえるかと思われます。
定価(本体3800円+税)
「初学者向けの基礎事項から実務家向けの最新トピックまで,会社法のすべてを解き明かした概説書。…」(出版社HP書籍紹介)とされる通り,細かい事項にまで丁寧に言及された会社法の最高峰の書といえます。もっとも,頁数は800頁弱もあり,通読にはあまり向きません。上記の『リーガルクエスト会社法(第4版)』や髙橋美加ほか『会社法(第2版)』を基本書としつつ,辞書代わりに持っていると有益かと思われます。
〈判例集について〉
なお,上記の基本書などの他,判例集としては,下記のものが最適です。
・岩原紳作・神作裕之・藤田友敬『会社法判例百選』(有斐閣,第3版,2016)