大学の法学部授業が始まった,法律学の入門書も読み終えたなど,本格的に法律学の勉強を始めたいという方のために,本コーナーでは,科目別の勉強方法の特色や受験生の多くが使用する基本書などの最新情報を提供致します。第7回は,「商法(手形法・小切手法)学習」の作法です。

1 手形法・小切手法の特色
手形・小切手の意義に関しては,早川徹『基本講義 手形・小切手法』(新世社,2007)P.3の部分の以下の記述に要約されているものと思われます。
「手形・小切手とは,一定の金銭の支払を目的とする有価証券…である。手形・小切手は,主として,企業間における決済手段や金融の手段として,あるいは,国際取引における送金・決済手段として利用されている。」
そして,手形には,約束手形と為替手形があり,以下のように定義されます。
「約束手形とは,振出人が受取人に対して,約束の日(満期)に一定の金額(手形金額)を支払うことを約束する証券(支払約束証券)である(手75条)。」(早川・前掲書P.3)
「為替手形とは,振出人が支払人に宛てて,受取人に対して満期に手形金額を支払うべきことを委託する証券(支払委託証券)である(手1条)。」(早川・前掲書P.4)
また,小切手は以下のように定義されます。
「小切手とは,振出人が支払人である銀行に宛てて,小切手の正当な所持人に対して,その請求の日に小切手に記載された金額(小切手金額)を支払うべきことを委託する証券(支払委託証券)である(小1条)」(早川・前掲書P.8)
上記の約束手形,為替手形,小切手の内,司法試験及び予備試験において圧倒的に重要なものは約束手形です。また,手形行為の成立要件の「手形の交付」に関しては,平成一桁代頃までは,学界及び司法試験受験界において,交付契約説+権利外観理論に依拠するか,それとも二段階創造説に依拠するかの対立がありましたが(いわゆる手形理論),現在では交付契約説+権利外観理論が主流といえます(早川・前掲書P.54~7)。
2 現行司法試験及び予備試験論文式試験における特徴
旧司法試験の論文式試験では,長年第1問が会社法,第2問が手形法・小切手法から(時折,商法総則・商行為法から)出題されておりました。事例問題がほとんどでしたが,時折説明問題も出題されました。
これに対して,現行司法試験及び予備試験では,商法は1問のみ,事例問題が出題されております。
まず,司法試験の方ですが,平成18年の開始以来,会社法分野から出題されており,手形法・小切手法の分野からの出題はありません。
他方,予備試験の方は,平成24年と同28年に手形法・小切手法の分野からの出題(会社法などとの融合)があります。
・平成24年司法試験予備試験論文式試験問題と出題趣旨(法務省HP)
・平成28年司法試験予備試験論文式試験問題と出題趣旨(法務省HP)
また,問われるのは,悪意の抗弁(手形法17条但書),偽造手形の被偽造者の責任などの主要論点が多く,旧司法試験よりは若干易しめといえるでしょう。
なお,予備試験短答式試験商法では,手形法・小切手法が,毎年2問ずつ出題されています(ちなみに,商法総則・商行為法も,毎年2問ずつ出題されています。)。
3 基礎講座受講の勧め
司法試験及び予備試験にチャレンジされる方は,上記の手形法・小切手法の特色を踏まえつつ学習効率を高めるために,受験指導校の基礎講座を受講されることを強くお勧め致します。
ちなみに,辰已法律研究所の「司法試験 原孝至・基礎講座 2018年」は,法科大学院修了・新司法試験合格・弁護士の原孝至先生が,予備試験の法律科目全科目(法科大学院入試の法律科目を含む。)を一貫して指導する新時代の基礎講座です。ご検討頂ければ幸いです。
【ご参考】手形法・小切手法のお薦めの基本書・参考書
書名に設定しているリンクのリンク先は出版社の当該書籍の紹介ページです。
同書は,「学部生向けの手形・小切手法の入門テキスト。有価証券の動向や会社法の対応等,最新の内容を採り入れながら図版を豊富にしてコンパクトに基本を解説する。」(出版社HP書籍紹介)とされ,初学者でも非常に分かりやすいです。また,同書の頁数は,索引を合わせて243頁であり,予備試験の短答で毎年2問,論文は数年おきに出題されるだけの手形法・小切手法対策としては,適切な分量といえるでしょう。
〈判例集について〉
なお,上記の基本書の他,判例集としては,下記のものが最適です。
・神田秀樹・神作裕之編『手形小切手判例百選』(有斐閣,第7版,2014)
【ご参考】商法総則・商行為法のお薦めの基本書・参考書
商法総則・商行為法の基本書・参考書もこの機会にご紹介致します。
書名に設定しているリンクのリンク先は出版社の当該書籍の紹介ページです。
同書は,「簡潔・明瞭な記述によって商法総則・商行為法の基本的知識を分かりやすく解説する好評のテキストの最新版。…」(出版社HP書籍紹介)とされ,この分野において,最も信頼され受験生に使用されているテキストといえます。司法試験及び予備試験においては,同書と判例百選で概ね対応できます。
〈判例集について〉
なお,上記の基本書の他,判例集としては,下記のものが最適です。
・江頭憲治郎・山下友信編『手形小切手判例百選』(有斐閣,第5版,2008)