【連載】科目別「法律学習」の作法 第8回「行政法学習」の作法(最終回)

 大学の法学部授業が始まった,法律学の入門書も読み終えたなど,本格的に法律学の勉強を始めたいという方のために,本コーナーでは,科目別の勉強方法の特色や受験生の多くが使用する基本書などの最新情報を提供致します。第8回(最終回)は,「行政法学習」の作法です。


1 行政法の特色

 行政法の意義に関しては,橋本博之『現代行政法』(岩波書店,2017)P.1の部分の以下の記述に要約されているものと思われます。

 

「…行政法という科目では,行政法規群に共通する『原理』をくくり出して,法的な分析・検討を行います。…行政法は,政策の実現,行政の仕組み,公権力の構造,公共空間の創造をフィールドとする学問領域です。…

…『行政法』とは,行政の組織・作用・救済を規律し,行政主体と国民の関係にかかわる法領域をいいます。」

 

 また,行政法は,行政組織法,行政作用法,行政救済法という3つの要素から構成されます。

 

「行政組織法とは,行政主体(国や地方公共団体)の内部組織に関する法です。」(橋本・前掲書P.3)

「行政作用法は,行政主体が国民(私人)に対してどのような働きかけ(=作用)をするか,という法関係に関わります。」(橋本・前掲書P.4)

「行政救済法は,国民(私人)が行政主体に対抗するための法的手段であり,行政作用法とは表裏の関係(作用に対する反作用)をなしています。」(橋本・前掲書P.5)

 

 この3要素のうち,行政組織法は,予備試験の短答式試験で問われる程度であり,司法試験及び予備試験対策としては,行政作用法(特に行政処分,行政手続,行政裁量など)と行政救済法(特に処分性,原告適格など)が圧倒的に重要です。

 もっとも,行政法の特色を知るためには,現実に起こった紛争に触れてみるのがよいでしょう。下記の裁判所HP裁判例情報掲載の「横浜市立保育園廃止処分取消請求事件」は,市の設置する特定の保育所を廃止する条例の制定行為に処分性を認めた事例ですが,身近な問題でかつ興味深い事例ですので,是非ご覧ください。

・最判平21.11.26(民集63-9-2124,横浜市立保育園廃止処分取消請求事件)

 (裁判所HP裁判例情報

2 現行司法試験及び予備試験論文式試験における特徴

 現行司法試験及び予備試験では,行政法は1問のみ,事例問題が出題されております。

 まず,司法試験の方ですが,平成30年公法系科目第2問(行政法)は,原告適格(行政救済法,訴訟要件)と行政裁量(行政作用法,本案)などを問う問題でした。現行司法試験の特色として,会話文による詳細な誘導が挙げられます。この誘導をうまく読み取れるかが解答の鍵となります。

・平成30年司法試験論文式試験問題系公法系科目(法務省HP

 また,平成29年の予備試験の方も,行政指導(行政作用法,本案)と原告適格(行政救済法,訴訟要件)が出題されております。予備試験の方は,会話文による誘導はありません。

・平成29年司法試験予備試験論文式試験問題と出題趣旨(法務省HP

3 基礎講座受講の勧め

 司法試験及び予備試験にチャレンジされる方は,上記の行政法の特色を踏まえつつ学習効率を高めるために,受験指導校の基礎講座を受講されることを強くお勧め致します。

 ちなみに,辰已法律研究所の「司法試験 原孝至・基礎講座 2018年」は,法科大学院を修了し,行政法が必須科目とされた現行司法試験に合格した弁護士の原孝至先生が,予備試験の法律科目全科目(法科大学院入試の法律科目を含む。)を一貫して指導する新時代の基礎講座です。ご検討頂ければ幸いです。

【ご参考】 行政法のお薦めの基本書・参考書

 書名に設定しているリンクのリンク先は出版社の当該書籍の紹介ページです。

 橋本博之教授は,多くの司法試験及び予備試験受験生に使用されている基本書・判例集・演習書を執筆しており,同書は昨年刊行されました。「『憲法の定める基本的価値を具体化する法の体系』として行政法を捉え直し,骨太に叙述した次世代型スタンダードテキスト。」(出版社HP書籍紹介)され,分かり易くコンパクトに行政法全体をまとめております。今後使用者が増えそうな一冊です。

 通称は,「サクハシ」です。「初版刊行以来,法学部をはじめ,各種国家試験・公務員研修等のテキストとして広く読まれている『行政法』。…」(出版社HP書籍紹介)であり,初版刊行当初,行政法を一冊にまとめた基本書が少なく,かつ,内容が充実していることから,受験生の圧倒的な支持を得ました。他に行政法一冊本が多く刊行されている現在でも,その人気は衰えていないようです。

 著者は,元司法試験及び予備試験考査委員です。

 同書の初版はしがきには,「…行政法教育の目標として,『行政法理論・通則的法律』を用いて『個別法』を解読し,『事案』に当てはめて解決する能力の習得が重視されるようになってきている。…」とあります。そこで,同書の3つの特色として,「…可能な限り個別法および設例を用いて説明している…」「…行政法を学ぶ読者の立場に立った解説…」「…『理論と事案との架橋』の前提となる基本的事項…そのものについても体系的に説明し,本書のみで基本的事項を一通り学習できるように配慮した」とされています。

 そして同書は,豊富な事例や分かり易い図表などから,受験生からの評価が急激に高まっております。また,「終章 事案解決の着眼点」では,元考査委員による典型的な行政法の論文問題の解答ポイントを見ることができます。

 著者は,元司法試験及び予備試験考査委員です。

 同書は,ケースを多用し,細かい事項にまで分かり易く丁寧に言及された司法試験行政法対策における最高峰の基本書といえます。もっとも,二冊本であることから分量が多いので,上記の一冊本を読みながら分かりにくい箇所について適宜参照する形で同書を読み始めるのがよいかと思われます。

 編著者の1人の北村和生教授は,現司法試験及び予備試験考査委員です。

 同書の初版が刊行された後,司法試験論文の行政法における受験生のレベルが上がったといわれるほど,司法試験対策として有益な問題集といえます。試験直前期で時間がない場合には,同書の「第1部 行政法の基本課題」を検討するだけでも,行政法の主要テーマを押さえることができます。特に,同書第1部は,司法試験の論文で最もよく出題される個別法の仕組み解釈,処分性,原告適格,行政裁量に関しまして,「ミニ講義1 規制法律の読み方」,「ミニ講義2 処分性要件の役割とその判断の方法」,「ミニ講義3 取消訴訟の原告適格」,「ミニ講義4 行政裁量と司法審査の方法」という項目で丁寧に解説しており,極めて有益です。

〈判例集について〉

 なお,上記の基本書などの他,判例集としては,下記のものが最適です。

 ・宇賀克也・交告尚史・山本隆司編『行政判例百選Ⅰ』『同Ⅱ』(有斐閣,第7版,2017)

 ・稲葉馨・下井康史・中原茂樹・野呂充編『ケースブック行政法』(弘文堂,第6版,2018)