【連載】基本三法【憲法・民法・刑法】の基礎知識 第9回 刑法総論「不真正不作為犯」

 各科目の学習作法を習得した後に訪れるのは,学部の定期試験です。そこで本連載では,司法試験予備試験及び法科大学院入試対策も兼ねて,憲法・民法・刑法の基本三法の頻出論点に関する基礎知識を紹介させて頂きます。まずは,週2回程度の更新で,答案の書き方のポイント2回,民法総則3回,憲法人権論3回,刑法総論3回を掲載致します。

 第9回 刑法総論「不真正不作為犯」

 不真正不作為犯とは,「作為犯の形式で規定されているように見える構成要件を不作為により実現したときをいう」(西田典之『刑法総論(第2版)』P.115)。そして,西田・前掲書P.115では,「…自分の子供にミルクを与えずに餓死させたり,生まれたばかりの子供を放置して死亡させたような不作為も199条の構成要件に該当するかが問題となる」との典型的な例を挙げています。そして,この不真正不作為犯は,平成22年,同26年,同30年の司法試験(新司法試験)論文式試験刑事系第1問(刑法)で正面から問われており,刑法の構成要件論の中では最重要テーマといえます。

 この不真正不作為犯の成立要件として西田・前掲書は,「不作為の因果関係」(同書P.117),「不作為犯の実行行為」(同書P.117~8),「作為の容易性」(同書P.118),「作為義務」(同書P.118~126)を項目立てて解説されています。これらの要件の中で一番重要なものは「作為義務」であり,学説が百花繚乱のごとく存在しています。

 そして,この「作為義務」に関する学説では,種々の作為義務の根拠を総合的に考慮して,問題となる不作為を作為の実行行為と同視できるかという視点から,作為義務の有無を判断する見解(多元説,大塚裕史ほか『基本刑法Ⅰ 総論(第2版)』P.85参照。)のほか,佐伯仁志教授の「排他的支配+危険創出または危険増加…が保障人的地位の根拠となる」(同『刑法総論の考え方・楽しみ方』P.89)とする見解を,妥当な事例処理ができるとして採られる司法試験受験生が多いようです。

 なお,不真正不作為犯に関する重要判例として,最決平17.7.4(刑集59-6-403,百選Ⅰ6事件)があります。また,平成30年司法試験及び予備試験考査委員である塩見淳教授による「特集『作為義務』の各論的検討 共同研究の趣旨とまとめ」刑法雑誌56巻2号(2017年)P.265~270なども参考になります。

 なお,下記で参考文献をお示しした上で,原孝至基礎講座のテキストである『新スタンダードテキスト刑法1』の該当部分を掲載(PDF)致します。本ブログ読者の皆様の学習にお役立て頂ければ幸いです。

 【参考文献】

  ・西田典之『刑法総論』(弘文堂,第2版,2010)(出版社HP書籍紹介参照

   P.115~126

  ・佐伯仁志『刑法総論の考え方・楽しみ方』(有斐閣,2013)(出版社HP書籍紹介参照

   P.80~97

  ・大塚裕史・十河太朗・塩谷毅・豊田兼彦『基本刑法Ⅰ 総論』(日本評論社,第2版,2016)

出版社HP書籍紹介参照

   P.79~90

ダウンロード
原孝至・基礎講座 教材
新スタンダードテキスト刑法1P.127~139PDF.pdf
PDFファイル 214.2 KB

↓「原孝至・基礎講座 2018年 秋生」のご案内↓

辰已法律研究所の「司法試験 原孝至・基礎講座 2018年」は,法科大学院修了・新司法試験合格・弁護士の原孝至先生が,予備試験の法律科目全科目(法科大学院入試の法律科目を含む。)を一貫して指導する新時代の基礎講座です。9/30(日)まで秋割実施中です。詳細はこちらをクリックしてください。