
各科目の学習作法を習得した後に訪れるのは,学部の定期試験です。そこで本連載では,司法試験予備試験及び法科大学院入試対策も兼ねて,憲法・民法・刑法の基本三法の頻出論点に関する基礎知識を紹介させて頂きます。まずは,週2回程度の更新で,答案の書き方のポイント2回,民法総則3回,憲法人権論3回,刑法総論3回を掲載致します。
第10回 刑法総論「正当防衛」
刑法36条1項は,「急迫不正の侵害に対して,自己又は他人の権利を防衛するため,やむを得ずにした行為は,罰しない。」と規定しており,これを正当防衛といいます。典型例は,「甲が刀で切りかかってきたため乙が拳銃で反撃するような場合」(西田典之『刑法総論(第2版)』P.153)です。そして,この正当防衛は,平成18年,同23年,同29年の司法試験(新司法試験)論文式試験刑事系第1問(刑法)で,また,平成26年予備試験論文式試験刑法で正面から問われており,刑法の違法性論の中では最重要テーマといえます。
この正当防衛の成立要件として西田・前掲書は,「自己または他人の『権利』の防衛」(同書P.157~8),「不正な侵害」(対物防衛など。同書P.158~160),「侵害の『急迫性』」(過去・将来の侵害,予期された侵害,積極的加害意思など。同書P.160~168),「防衛行為」(防衛効果,防衛の意思など。同書P.168~173),「相当性の要件」(同書P.173~6)を項目立てて解説されています。そして,どの要件も判例が蓄積するなど実務上・学術上重要であり,中でも「防衛の意思」の要否などは,違法性の実質における行為無価値論と結果無価値論の対立を象徴する論点といえます。
また,正当防衛に関する近時の注目すべき判例として,「侵害を予期した上で対抗行為に及んだ場合における刑法36条の急迫性の判断方法」(下記裁判所HP裁判例情報掲載判示事項)について判示した最決平29.4.26(刑集71-4-275,平成29年度重判刑法2事件)があります。そして,当該最高裁判例の判例批評を平成30年司法試験及び予備試験考査委員である成瀬幸典教授が執筆されている(同「判批」法学教室444号P.158)ことからも,注意した方がよいでしょう。
なお,下記で参考文献をお示しした上で,原孝至基礎講座のテキストである『新スタンダードテキスト刑法1』の該当部分を掲載(PDF)致します。本ブログ読者の皆様の学習にお役立て頂ければ幸いです。
・山口 厚『刑法』(有斐閣,第3版,2015)(出版社HP書籍紹介参照)
P.63~74
・最決平29.4.26(刑集71-4-275)(裁判所HP裁判例情報参照)
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