
各科目の学習作法を習得した後に訪れるのは,学部の定期試験です。そこで本連載では,司法試験予備試験及び法科大学院入試対策も兼ねて,憲法・民法・刑法の基本三法の頻出論点に関する基礎知識を紹介させて頂きます。今回の続編では,民法債権法5回,憲法統治機構論2回,刑法各論3回,民法物権法3回程度を掲載致します。
第4回 民法債権法「売主の瑕疵担保責任(契約不適合責任)」
現行民法は,売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは,買主は,そのために契約をした目的を達することができないときは,買主は,契約の解除をすることができる。この場合において,契約の解除をすることができないときは,損害賠償の請求のみをすることができる。契約の解除又は損害賠償の請求は,買主が事実を知った時から1年以内にしなければならないと規定しています(570条本文,566条1項・3項)。これが売主の瑕疵担保責任です。
この売主の瑕疵担保責任の意義・法的性質に関しては,従来から瑕疵担保責任を法定責任と解する見解(法定責任説)と,法定責任ではなく債務不履行責任の一種あるいは特則と解する見解(契約責任説・債務不履行責任説)とで激しい争いがあります。
まず,法定責任説は,「特定物売買の場合には,売主は目的物をあるがままの状態で引き渡せば足りるという基本的観念にもとづいている(これを特定物ドグマという)」(山田卓生ほか『分析と展開 民法Ⅱ』(弘文堂,第5版,2005)P.188(円谷峻執筆)と説明します。他方,契約責任説・債務不履行責任説は,「特定物の売主があるがままのものを引き渡せばその義務を免れるとする法定責任説の基本的前提―これを特定物ドグマという―を強く批判」(前掲・分析と展開P.189)します。両説からの帰結として,対象が特定物に限られるか,売主の債務の内容,効果,損害賠償の範囲等が異なることとなります(この点,藤岡康宏ほか『民法Ⅳ―債権各論(有斐閣Sシリーズ)』(有斐閣,第3版補訂,2009)P.82(浦川道太郎執筆)の「表5 瑕疵担保責任に関する学説」が非常に有益です。)。
そして,平成29年改正法で瑕疵担保責任は,契約不適合責任と改められました。すなわち,「改正民法は,売主が買主に目的物を引き渡し,又は,権利を移転したが,それが契約の内容に適合しない場合について,買主の追完請求,代金減額請求,損害賠償請求及び解除を認める。まず,目的物の不適合の場合について規定し(新562条~新564条),これを権利の不適合の場合に準用する(新565条)」(中田裕康『契約法』(有斐閣,2017)P.313~4)とされます。そして,「売主の担保責任の法的性質は,債務不履行責任である。現行法のもとでいうところの契約責任説がとられている」(中田・前掲書P.316)とされております。
下記で参考文献をお示しした上で,原孝至基礎講座のテキストである『新スタンダードテキスト民法Ⅱ』(改正民法にも対応)の該当部分を掲載(PDF)致します。本ブログ読者の皆様の学習にお役立て頂ければ幸いです。
・山田卓生ほか『分析と展開 民法Ⅱ』(弘文堂,第5版,2005)(出版社HP書籍紹介参照)
P.187~200
・民法の一部を改正する法律(債権法改正)について(法務省HP)
説明資料に「売主の瑕疵担保責任に関する見直し①②」も掲載されています。
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