【新連載】民法改正の概要 第1回 民法改正・総則

 2017年5月に、債権法分野を中心とする民法大改正法案が成立し(民法の一部を改正する法律)、同年6月2日に公布、2020年4月1日に施行されます。2020年以降の司法試験および予備試験は改正法で出題されます。多くの法科大学院入試も、2019年から改正法で出題されることが予想されます(2018年入試から改正法で出題している大学院も多数ございます)。

 また、2018年7月6日、民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律が成立し、同年7月13日に公布、一部の規定を除いて、2019年7月1日に施行されます。

 そこで本連載では、これらの改正の概要を6回にわたって掲載致します。

 第1回は、民法改正・総則です。

第1回 民法改正・総則

本日は,民法総則分野の改正内容のうち、特に重要な事項を掲載します。

1 心裡留保

  改正法93条2項には「前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗するこ

 とができない。」と規定されています。これは、心裡留保により無効とされる行為を前提として、新

 たに法律上の利害関係を持つにいたった者を保護するために、現行法94条2項を類推適用した判例

 (最判昭44.11.14)を明文化したものです。

2 錯誤

 ⑴ 改正法95条1項柱書には「意思表示は、…その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に

  照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。」と規定されています。これは、錯誤

  の効果が本来の無効ではなく取消しに近いという判例及び学説の考え方を明文化したものです。

 

 ⑵ 判例は、「要素の錯誤」の意義について、各法律行為において表意者が意思表示の内容部分とな

  し、この点につき錯誤がなかったならば意思表示をしなかったであろうと考えられ、かつ、表示し

  ないことが一般取引の通念に照らし妥当と認められるものと判示していました(大判大7.10.3)。

  そこで、改正法95条1項柱書では、現行法95条にいう「法律行為の要素」の文言が「その錯誤が

  法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なもの」と改められました。

 

 ⑶ 現行法では動機の錯誤についての明文はありませんが、判例は、動機の錯誤は原則、現行法95条

  にいう「錯誤」にはあたらないとしつつ、例外的に「表意者が当該意思表示の内容としてこれ相手方

  に表示した場合」には「錯誤」にあたるとしています(最判昭29.11.26等)。改正法は、95条1

  項2号に「表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤」を取り消す

  ことができる旨、同条2項に「前項第2号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の

  基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。」と規定し、動機の錯誤が

  取消しの対象となること及び取り消し得る場合を明文化しました。

 

 ⑷ 改正法95条4項は「第1項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に

  対抗することができない。」と規定し、現行法95条に存在しない第三者保護規定を新設しました。 

代理権の濫用

  現行法では代理権の濫用についての明文はありませんが、判例は代理人が代理権限を濫用した場合

 に、現行法93条ただし書を類推適用することで本人保護と第三者保護との調和を図っています(最判

 昭42.4.20 百選Ⅰ26事件)。改正法107条は「代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理

 権の範囲内の行為をした場合において、相手方がその目的を知り、又は知ることができたときは、そ

 の行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。」と規定し、代理権濫用についての判例法理を

 明文化しました。

4 消滅時効

 ⑴ 時効期間と起算点

   改正法166条1項には、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使な

  いとき(1号)及び、権利を行使することができる時から10年間行使しないとき(2号)には債権は

  消滅する旨が定められています。この改正に伴い、商事消滅時効(商法522条)の規定及び短期消滅

  時効の規定(現行法170条~174条)は削除されました。

 

 ⑵ 時効の更新、完成猶予

   現行法では、時効の進行や完成を妨げる事由として「時効の中断」や、「時効の停止」が定められ

  ています(現行法147条、158条以下等)。しかし、時効の中断や停止の効果を現行法の規定から

  読み取ることは難しく、制度として複雑かつ不安定であるとの批判がなされていました。これを受

  けて、改正法では、時効の中断を「時効の更新」、時効の停止を「時効の完成猶予」との表現に改 

  め、わかりやすく再構成されました(改正法147条以下)。「時効の更新」とは、それまでの時効

  期間が一定の事由の発生によって進行を終了し、新たな時効期間の進行が開始することをいい、時効

  の更新事由として、裁判上の請求等による権利の確定(改正法147条2項)、強制執行等による権

  利の確定(同法148条2項)、承認(同法152条1項)に整理されました。また、「時効の完成

  猶予」とは、一定の事由がある場合に、その事由の終了又は消滅の時から一定期間が経過するまでは

  時効の完成が猶予されることをいい、時効の完成猶予事由として、裁判上の請求等(改正法147条1

  項)、強制執行等(同法148条1項)、仮差押え等(同法149条)、催告(同法150条)、協議

  を行う旨の合意(同法151条)、天災等(同法161条)などに整理されました。

 

 ⑶ 人の生命、身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効

   現行法上、生命・身体侵害を理由とする損害賠償請求について、被害者にとって債務不履行責任の

  方が不法行為責任に比べて時効期間の点で有利であるとの理解がなされています(現行法1661項、

  724条前段)。しかし、改正法では、被害者の十分な権利行使の機会を確保するため、債務不履行、

  不法行為のいずれにおいても、生命・身体侵害を理由とする損害賠償請求権は主観的起算点から5

  年、客観的起算点から20年の消滅時効に服するものと改められました(改正法167条、724条の

  2参照)。


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