2017年5月に、債権法分野を中心とする民法大改正法案が成立し(民法の一部を改正する法律)、同年6月2日に公布、2020年4月1日に施行されます。2020年以降の司法試験および予備試験は改正法で出題されます。多くの法科大学院入試も、2019年から改正法で出題されることが予想されます(2018年入試から改正法で出題している大学院も多数ございます)。
また、2018年7月6日、民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律が成立し、同年7月13日に公布、一部の規定を除いて、2019年7月1日に施行されます。
そこで本連載では、これらの改正の概要を6回にわたって掲載致します。
第2回は、民法改正・債権総論①です。
第2回 民法改正・債権総論①
債権総論分野の改正内容は、特に重要な事項を2回に分けて掲載します。
本日は、債権総論分野の改正内容のうち、1 法定利率、2 履行の強制、3 債務不履行による損害賠償、4 債権者代位権、5 詐害行為取消請求を掲載します。
1 法定利率
改正法では、現行法上「年5分」と定められている法定利率が「年3パーセント」と改められまし
た。これは、法定利率を現在の経済情勢と合致させるためです。また、改正以降、経済情勢に合わせた
法定利率の変更を可能にするため、3年ごとに3年を一期として法定利率を変更できる変動利率制が採
用されました(改正法404条2項、3項、4項)。
2 履行の強制
債権者は債務者に対して債務の履行を強制することができます。改正法414条1項本文には「債務
者が任意に債務の履行をしないときは、債権者は、民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規
定に従い、直接強制、代替執行、間接強制その他の方法による履行の強制を裁判所に請求することがで
きる。」と規定されており、債権に内在する実体的権能が明文化されています。また、ただし書では、
その債務の性質が履行強制になじまない場合には履行の強制を請求することができない旨を定めていま
す。
3 債務不履行による損害賠償
⑴ 総論
改正法415条1項本文には「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が
不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。」と定められ
ています。現行法415条では、前段の「債務の本旨に従った履行をしないとき」には、「履行をするこ
とができな」いときが文言上含まれないと読む余地があったため、その余地を排除するために、「又は
債務の履行が不能であるとき」との文言を追加したものです。そして、ただし書において、損害賠償責
任の免責事由の有無は「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」判断されるこ
とが定められました。
⑵ 履行補助者の故意過失
現行法上では、履行補助者を①債務者の手足となる者(狭義の履行補助者)と②債務者の履行を引き
受ける者(履行代行者)とに分類し、②についてはさらに、ⅰ明文上履行代行者を使用することができ
ないのに使用した場合、ⅱ明文上積極的に履行代行者の使用が許されている場合、ⅲいずれでもなく、
給付の性質上履行代行者の使用を許しても差し支えない場合に分け、どの類型にあたるのかという観点
から債務不履行責任における「債務者の責めに帰すべき事由」(現行民法415条後段)の有無を判断す
る、という形で履行補助者の故意過失の議論がなされていました。そして、復代理人を選任した代理人
の責任を限定する現行法105条を根拠に、上記②-ⅱ、②-ⅲの場合には、債務者は選任監督について
のみ責任を負うと解されてきており、以上の考えは伝統的通説として理解されてきました。
これに対し、改正法では、現行法105条は削除されました。また、改正法は、委任と準委任につき受
任者の自己執行義務を定めています(改正法644条の2第1項)。こうした改正点は、上記の伝統的
通説とは異なる方向性を持つものであり、改正法下では、他人を使用した者の責任については債務不履
行責任の一般規定に従った判断をすべきであると考えられます。
さらに、改正法では、「責めに帰することができない事由」=「過失」とする従来の過失責任主義と
決別し、債務不履行に基づく損害賠償請求権の正当化根拠を契約の拘束力に求めることとされました。
そのため、「債務者の責めに帰すべき事由」とは、客観的事情の下における過失の有無によるのではな
く、「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」判断されることとなり(改正法
415条1項ただし書)、履行補助者の故意過失についても、その枠内で論じられることとなります。
4 債権者代位権
⑴ 代位行使の範囲
改正法423条の2には「債権者は、被代位権利を行使する場合において、被代位権利の目的が可分
であるときは、自己の債権の額の限度においてのみ、被代位権利を行使することができる。」と定めら
れています。これは、債権者は自己の債権額の範囲においてのみ債務者の権利を代位行使できる旨判示
した判例(最判昭44.6.24 百選Ⅱ12事件)を明文化したものです。
⑵ 債権者への支払又は引渡し
改正法423条の3前段には「債権者は、被代位権利を行使する場合において、被代位権利が金銭の
支払又は動産の引渡しを目的とするものであるときは、相手方に対し、その支払又は引渡しを自己に対
してすることを求めることができる。」と定められています。これは、金銭債権の代位行使において、
債権者は第三債務者に直接自己への金銭の支払を請求できるという判例法理(大判昭10.3.12)を明
文化したものです。
⑶ 債務者の取立てその他の処分の権限等
債権者が債権者代位権を行使した場合の債務者の被代位債権の処分権限につき、判例(大判昭14.
5.16)は、債務者は、債権者の権利行使につき通知を受けたとき、又は、これを知ったときには、も
はや権利の処分ができず、したがって債務者独自の訴えの提起もできないと判示していました。改正法
423条の5前段には、「債権者が被代位権利を行使した場合であっても、債務者は、被代位権利につ
いて、自ら取立てその他の処分をすることを妨げられない。」と規定されており、判例法理が改められ
ています。
⑷ 訴訟告知
改正法423条の6は、債権者代位訴訟を提起した代位債権者に対し、債務者への訴訟告知義務を規
定しています。債権者代位訴訟における代位債権者は、会社法847条3項の株主代表訴訟における株主
と同様、法定訴訟担当と解されており、上記訴訟の判決効は被担当者たる債務者にも及ぶ(大判昭15.
3.15 民事訴訟法115条1項2号)とされているにもかかわらず、債務者に対する訴訟告知の規定を
欠いていました。そのため、債務者の手続保障の観点からこれを義務付けるものです。
⑸ 登記又は登録の請求権を保全するための債権者代位権
改正法423条の7には「登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することが
できない財産を譲り受けた者は、その譲渡人が第三者に対して有する登記手続又は登記手続をすべきこ
とを請求する権利を行使しないときは、その権利を行使することができる。この場合においては、前3
条の規定を準用する。」と規定され、債権者代位権の転用(大判明43.7.6 百選Ⅱ14事件等)が明
文化されました。
5 詐害行為取消請求
⑴ 法的性質
改正法424条の6第1項前段は、詐害行為取消権の法的性質につき、詐害行為の取消しを求める形
成訴訟と、逸失利益の返還を求める給付訴訟の両性質を認める判例(折衷説、大連判明44.3.24)を
明文化しました。また、同条項後段及び同条2項は、受益者及び転得者に対し、現物返還が原則であ
るとしつつ、現物返還が困難な場合には例外的に価額償還を認める判例法理(大判昭7.9.15)を明文
化しました。
⑵ 被告及び訴訟告知
詐害行為取消権の被告適格につき、判例(大連判明44.3.24 百選Ⅱ15事件)は、受益者又は転得
者が被告適格を有し、債務者は被告適格を有しないと判示しました。改正法424条の7第1項1号及
び2号では「受益者に対する詐害行為取消請求に係る訴え」の被告は「受益者」、「転得者に対する詐
害行為取消請求に係る訴え」の被告は「その詐害行為取消請求の相手方である転得者」であると定めら
れており、判例法理が明文化されています。
⑶ 詐害行為の取消しの範囲
改正法424条の8第1項には「債権者は、詐害行為取消請求をする場合において、債務者がした行
為の目的が可分であるときは、自己の債権の額の限度においてのみ、その行為の取消しを請求すること
ができる。」と定められています。これは、債権者は自己の債権の額の限度においてのみ、その行為の
取消しを請求することができるという判例法理(最判昭30.10.11)を明文化したものです。
⑷ 認容判決の効力が及ぶ者の範囲
詐害行為取消権の効果について、判例(大連判明44.3.24 百選Ⅱ15事件)は、詐害行為取消しの
効果は訴訟当事者の債権者と受益者との間でのみ生じ、債務者に及ばない(相対的取消し)としまし
た。しかし、改正法425条では「詐害行為取消請求を認容する確定判決は、債務者及びその全ての債
権者に対してもその効力を有する。」と規定され、判例法理が改められました。これは、改正法425
条の2、改正法425条の4において、債務者の行為が取り消された場合の債務者に対する反対給付の
返還請求権又はその価額の償還請求権が受益者及び転得者に認められたことに基づくものです。
⑸ 期間制限
現行法426条後段は、詐害行為取消権行使の期間制限について、「行為の時から20年」と規定して
います。しかし、詐害行為取消権を行使するためには詐害行為の時から詐害行為取消権行使の時まで債
務者の無資力状態が継続していることが求められるところ、20年の長期にわたって債務者の状態を放置
した債権者を保護する必要性は乏しいと考えられます。そのため、改正法426条後段は「行為の時か
ら10年」とし、権利行使期間を短縮しました。なお、現行法426条は詐害行為取消権の消滅時効期間
を規定するものですが、改正法では「詐害行為取消請求に係る訴えは、……提起することができな
い。」と規定されており、出訴期間の規定に改められています。これは、詐害行為取消権が、取消権等
(120条等)の実体法上の形成権ではないためです。
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