【連載】民法改正の概要 第6回 民法改正・相続法

 2017年5月に、債権法分野を中心とする民法大改正法案が成立し(民法の一部を改正する法律)、同年6月2日に公布、2020年4月1日に施行されます。2020年以降の司法試験および予備試験は改正法で出題されます。多くの法科大学院入試も、2019年から改正法で出題されることが予想されます(2018年入試から改正法で出題している大学院も多数ございます)。

 また、2018年7月6日、民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律が成立し、同年7月13日に公布、一部の規定を除いて、2019年7月1日に施行されます。

 そこで本連載では、これらの改正の概要を6回にわたって掲載しています。

 第6回(最終回)は、民法改正・相続法です。

第6回 民法改正・相続法

 2018年7月6日、民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律が成立しました(平成30年法律第72号)。公布日は2018年7月13日です。

 この改正は、高齢化の進展等の社会経済情勢の変化に鑑み、相続が開始した場合における配偶者の居住の権利及び遺産分割前における預貯金債権の行使に関する規定の新設、自筆証書遺言の方式の緩和、遺留分の減殺請求権の金銭債権化等を行うものです。この法律の公布日、施行日は以下の通りです。


     民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律

      (公布日):2018年7月13日

     (施行日):原則として、2019年7月1日。ただし、

           ①民法968条、970条2項及び第982条の改正規定(遺言関係)の

           施行日は、2019年1月13日

           ②民法998条、1000条及び1025条ただし書の改正規定(錯誤、遺贈関

           係)、1028条~1041条の改正規定(配偶者の居住の権利関係)の

           施行日は、2020年4月1日


 以下、改正につき重要な事項を紹介していきます!

1 配偶者の居住権の保護に関する改正

  配偶者の居住の権利(配偶者居住権・配偶者短期居住権)の創設

  自宅不動産に関する権利について「所有権」の他に「配偶者の居住の権利(配偶者居住権・配偶者短

 期居住権)」を創設し、配偶者が自宅を相続しなくとも、相続発生時に被相続人の住居に同居していた

 場合に無償でその居住していた建物の全部について使用及び収益する権利を取得することができ、被相

 続人の財産に属した建物に相続開始時に無償で居住していた場合には、居住建物について無償で使用す

 る権利を有する旨の改正がなされました(改正法1028条~1041条)。同改正により高額な自宅不

 動産を相続する必要がなくなるため、自宅以外の財産の取り分が、その分増加します。

  同改正の趣旨は、高齢化の進展などの社会情勢に鑑み、高齢配偶者の生活の安定を図ることにありま

 す。そして、配偶者居住権の存続期間は、原則配偶者の終身の間(改正法1030条)、配偶者短期居住

 権の場合は、遺産の分割をすべき場合、遺産分割により居住建物の帰属が確定した日と相続開始の時か

 ら6か月を経過する日のいずれか遅い日まで、それ以外の場合は、配偶者短期居住権の消滅の申入れの

 日から6か月となります(改正法1037条1項)。

  配偶者居住権を第三者に対抗するためには登記が必要です(改正法1031条)。

2 自筆証書遺言に関する改正

 ⑴ 自書性について

    財産目録の部分に関しては自書を要せず、パソコンやワープロ等による記載も認められるようにな

  りました(改正968条2項)。

   同改正の趣旨は、自筆証書遺言の方式を緩和し、かつ記載の不備による遺言の無効を防ぐことにあ

  ります。

 

 ⑵ 保管と検認について

   法務局での遺言書の保管が可能となりました。法務局で遺言書の保管をする場合、検認は不要で

  す。(「法務局における遺言書の保管等に関する法律」)。

   その趣旨は、自筆証書遺言の保管場所を提供し、かつ検認手続を不要とすることで自筆証書遺言の

  利用を促進することにあります。

3 遺産分割に関する改正

 ⑴ 夫婦間の自宅の贈与

   20年以上婚姻関係にある夫婦の一方である被相続人が他方配偶者に対して居住用不動産を遺贈又は

  贈与した場合、当該不動産について持戻し免除の意思表示があったものと推定される旨の改正がなさ

  れました(改正法903条4項)。

   同改正の趣旨は、生存配偶者の生活の安定を図ることにあります。

 

 ⑵ 預貯金債権の仮払制度

   預貯金債権も遺産分割の対象となる(最大決平成28年12月19日)が、各共同相続人は、遺産分割

  前でも一定の範囲で預貯金債権の単独での権利行使が認められる旨の改正がなされました(改正法

  909条の2)。

   同改正の趣旨は、遺産分割までに葬式費用や生活費などが必要となる相続人の保護を図ることにあ

  ります。

4 遺留分に関する改正

 ⑴ 遺留分減殺請求権の金銭債権化

   改正法では、遺留分権利者及びその承継人が受遺者又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金

  銭を請求することができる旨が規定され、現行法のような現物返還は認められなくなります(改正法

  1046条第1項)。

   同改正の趣旨は、現物返還が困難な場合に生じる不都合を回避することにあります。

 

 ⑵ 遺留分侵害額の計算方法の明確化

   改正法は、遺留分侵害額の算定方法を明文で定めています(改正法1046条2項)。

 

 ⑶ 相続人に対する贈与(特別受益)

   相続人に対して相続開始前の10年間より前になされた生計の資本としての贈与などについては持戻

  しの対象にならず、遺留分算定の基礎から除外される旨の改正がなされました(改正法1044条3

  )。なお、相続人以外の者に対する相続開始前1年以内の贈与が遺留分を算定するための財産の価

  額に算入される旨の改正がなされました。

5 相続人以外の者の保護に関する改正

  特別寄与者

  相続人には当たらないが一定の貢献をした被相続人の親族を「特別寄与者」とし、相続人に対して寄

 与に応じた特別寄与料の請求を認める旨の改正がなされました(改正法1050)。

  同改正の趣旨は、被相続人の介護などに貢献した相続人以外の者の権利を保護することにあります。