
新型コロナウイルス感染症の状況を踏まえて、令和2年司法試験及び予備試験の実施が延期となり、多くの法曹志望者の方が巣ごもり学習を強いられているかと思います。そこで、本特集では、基礎講座の受講生や令和2年司法試験及び予備試験受験生の基本的な知識・理解の確認に最適な基本書・参考書を科目別に紹介させていただきます。
➀ 芦部信喜『憲法』(岩波書店、第7版・高橋和之補訂、2019)定価(本体3200円+税) (出版社HP書籍紹介参照)
➁ 芦部信喜『憲法判例を読む』(岩波書店、1987)定価(本体2000円+税)(出版社HP書籍紹介参照)
上記①は、憲法学の第一人者である故・芦部信喜先生執筆の基本書(通称は、「芦部憲法」。)です。芦部先生は、1999年に逝去されていますが、その後、芦部先生の門下生である高橋和之教授による補訂がなされています。
まず、同書は、「…大学の憲法講義は、制度の枠組みの解説ではなく、その制度の沿革を探り、その趣旨、目的および機能を、それに関する諸々の見解の比較検討と対立しまたは絡み合う諸々の価値・利益の比較衡量とを通じて、具体的に明らかにし、一定の結論を導き出す論理構成の能力を養うこと、を目的にしているということである」(初版はしがき)と憲法解釈の指針を示した後に、「第一部 総論」、「第二部 基本的人権」、「第三部 統治機構」の順に解説されています。
次に、同書の特色として、以下の点が挙げられます。
⑴ 二重の基準論を中心に違憲審査の基準を緻密に論じられている
これは、司法試験や予備試験の論文式試験の解答の際に非常に参考になります。他の憲法の基本書や司法試験予備校のテキストなども、そのほとんどが芦部先生の違憲審査の基準をまず参考にしてから論じているものと思われます。
⑵ 注の部分の判例紹介が非常に丁寧である
事案も含めて重要判例を的確に紹介されております。これは、旧司法試験以来、特に短答式試験対策に非常に有益であると言われております。
⑶ 高橋和之教授による補訂で憲法学に関する最新情報も充実している
通常どの基本書も著者が逝去されると改訂がなされなくなり、その結果、使用者も減るのですが、同書は、芦部先生の逝去後も高橋和之教授によって補訂されており、常に憲法学に関する最新情報に接することが出来ます。とりわけ、同書P.194~7記載の「インターネット上の表現の自由」は、司法試験や予備試験対策上、非常に有益です。ちなみに、同書P.196~7では、検索エンジンに関する最決29.1.31民集71-1-63を紹介して詳細に検討されておりますが、同判例は、平成31年(令和元年)司法試験論文式試験公法系科目第1問(憲法)の素材判例といえます(同問題の法務省発表の出題趣旨及び曽我部真裕(平成31年司法試験考査委員)「『インターネット上の情報流通の基盤』としての検索サービス」論究ジュリスト25号P.47~53参照。)。
上記②は、芦部先生による市民セミナーの速記をもとにまとめたものです。重要な憲法判例と違憲審査基準について分かりやすく解説されており、旧司法試験時代から憲法を苦手とする受験生や憲法を強化したい受験生に愛読されてきました。とりわけ違憲審査の基準に関する同書P.103「第1図(学説)」と、同書P.111「第2図(判例)」は、非常に有益ですので、是非参照して下さい。
以上、芦部先生の著作である①と②を紹介させて頂きました。現在、法学部の授業や基礎講座などで憲法を学んでいる方は、授業の進行にあわせて①を読み進められるとよいでしょう。また、令和2年司法試験及び予備試験を受験される方で短答式試験を苦手とされる方は、①の注の部分の判例を中心に読まれるとよいでしょう。さらに、論文式試験対策を強化したい方は、主として①の本文を②を参照しつつ読まれるとよいでしょう。