
新型コロナウイルス感染症の状況を踏まえて、令和2年司法試験及び予備試験の実施が延期となり、多くの法曹志望者の方が巣ごもり学習を強いられているかと思います。そこで、本特集では、基礎講座の受講生や令和2年司法試験及び予備試験受験生の基本的な知識・理解の確認に最適な基本書・参考書を科目別に紹介させていただきます。
➀ 橋爪隆『刑法総論の悩みどころ』(有斐閣、2020)定価(本体3200円+税)(出版社HP書籍紹介参照)
➁ 西田典之『刑法各論』(弘文堂、第7版、2018)定価(本体4000円+税)(出版社HP書籍紹介参照)
上記①は、新たに令和2年司法試験及び予備試験考査委員となられた橋爪隆東京大学大学院法学政治学研究科教授の著書です。
まず、同書は、橋爪教授の法学教室における連載を単行本化したものです。有斐閣HP書籍紹介には、「…刑法総論の理解が困難なポイント(=悩みどころ)について、理論状況等を整理して一定の道筋を示す。抽象的概念を、学説状況や判例の展開、ポイントとなる考え方などを詳細に紹介・解説し、具体的にイメージして理解できる。」と記載されており、理論及びその根拠を重視する直近2年の司法試験の傾向に合致したものと思われます。そして、同書は、法学教室における連載段階からの評価の高さや著者である橋爪教授が新たに令和2年司法試験及び予備試験考査委員(出題委員)に任命されたことから、受験生の注目度は非常に高いようです。
もっとも、同書は、その内容の難易度が若干高いことから基礎講座受講中の段階では、まず、大塚裕史ほか『基本刑法Ⅰ総論』(日本評論社、第3版、2019)などの標準的な基本書の精読を優先すべきかと思われます。
なお、今年の司法試験又は予備試験を受験する方で、両試験の出題の周期性などに鑑み同書の特に注意すべきと思われる章は、以下の通りです。
・第1章、第4章、第5章、第9章、第10章、第11章、第13章、第14章、第16章、第17章
上記②は、故・西田典之先生による刑法各論の最高峰の基本書で、弘文堂HP書籍紹介には、「豊富な具体的事例に基づき、刑法各論の解釈論を明快に提示した基本書の決定版を、愛弟子の橋爪隆東大教授が、丁寧に補訂。」と記載されたおり、現考査委員の問題意識が反映された一冊といえます。とりわけ、短答式試験に必要な知識の網羅性は、極めて高いといわれております。
ただ、司法試験の受験生からは、「難易度が若干高く、判例と西田先生の見解が異なる箇所がいくつかあり、西田先生の見解の方に説得力があることが多いため、どちらを自説としてよいのか迷うことが多々ある」旨の感想を聴くことがありますが、このような箇所は、平成30年司法試験論文式試験における形式変更後の設問2型の素材となる可能性があるので、各自で十分検討されておくとよいでしょう。
なお、同書は、今年の司法試験及び予備試験を受験する方のほか、基礎講座受講中の方も講義と並行して読まれると有益かと思われます。