巣ごもり学習に最適な基本書・参考書【民事訴訟法編】

 新型コロナウイルス感染症の状況を踏まえて、令和2年司法試験及び予備試験の実施が延期となりました。また、原孝至・基礎講座も、当初は、通信・WEB受講での開講となるなど、多くの法曹志望者の方が巣ごもり学習を強いられているかと思います。そこで、本特集では、基礎講座の受講生や令和2年司法試験及び予備試験受験生の基本的な知識・理解の確認に最適な基本書・参考書を科目別に紹介させて頂きます。

➀ 三木浩一・笠井正俊・垣内秀介・菱田雄郷『民事訴訟法』(リーガルクエスト)(有斐閣、第3版、2018)定価(本体3900円+税)(出版社HP書籍紹介参照

➁ 越山和広『ロジカル演習 民事訴訟法』(弘文堂、2019)定価(本体2200円+税)(出版社HP書籍紹介参照

 上記①は、令和2年司法試験及び予備試験考査委員である笠井正俊教授も執筆者の一人であり、近時の本試験のタネ本とも言われる民事訴訟法の基本書です。例えば、平成30年司法試験論文式試験民事系科目第3問(民事訴訟法)設問1に関する本書P.530~533(「11-7-3 重複訴訟の処理」(笠井執筆))、同年予備試験論文式試験民事訴訟法設問3に関する本書P.524~6(「11-6-2 弁論の分離・併合についての判断」(笠井執筆))など、とりわけ笠井教授が考査委員(出題委員)に任命された平成30年以降の論文式試験において、本書を読んでいると比較的有利と思われる出題が続いています。このため、本書を司法試験及び予備試験対策のために使用される受験生が増加しています。

 もっとも、本書の初版はしがきには、「幸いなことに、本書では、主要な問題について著者間で大きく意見が対立したことは少なく、わずか4人の間における見解の一致とはいえ、現在の学界におけるある程度有力な考え方につき、その一端なりとも示すことができたのではないかと思う。」と記載されています。さらに、新たに令和2年司法試験及び予備試験考査委員に任命された勅使川原和彦教授は、令和元年秋に行われた2019有斐閣フェア「著者が薦める有斐閣の本」として本書を推薦されていますが、その推薦文(フェア用に作られた本書の黄色の帯に記載)には、「三木先生・笠井先生・垣内先生・菱田先生といえば、いずれ名がある民訴学者で、その手になる質の高い本書は、いろいろクセの強い部分も含みますが(たぶんほとんど三木先生の影響)、そうしたご見解も、やがて伝統的通説に取って代わっても不思議はないものです。表現ぶりの細部まで、刮目して読むべき一冊ではないでしょうか。」と記載されています。このため、本書は最新の有力説に立つ部分が多いようであり、司法試験及び予備試験受験生の立場からは若干難解に感じられるかもしれません。

 上記②は、元考査委員の越山和広教授による民事訴訟法の演習書です。本書にはしがきに「…本書の目標は、民事訴訟法の重要な論点について、論理的に正しい順序で考えることができる力を高め、正しい順序で検討した結果を答案上で説得的に展開できる力を確立することにあります。」と記載されております。このため、本書には、事例、解説、参考文献欄のほかに、越山教授が自ら作成した解答例も付けられています。この事例数は30個で、民事訴訟法判例百選掲載判例などを素材として高い網羅性があります。また、問題文は、旧司法試験や予備試験ぐらいの問題文の長さで演習しやすいものとなっています。

 また、本書の参考文献欄のほとんどに上記①の『リーガルクエスト民事訴訟法(第3版)』の該当部分が記載されており、本書の解説・解答例などは『リーガルクエスト民事訴訟法(第3版)』を意識して執筆されているようです(ちなみに笠井教授と越山教授の2人は、『新・コンメンタール民事訴訟法』(日本評論社、第2版、2013)編者であり、比較的近い関係にあるものと推測されます。)。

 そこで、令和2年司法試験及び予備試験論文式対策としては、まず、上記②『ロジカル演習 民事訴訟法』で演習しつつ、同書が参考文献欄で紹介する上記①『リーガルクエスト民事訴訟法(第3版)』の当該部分を読んで確認するという学習方法も合理的かと思います。

 ただ、上記①は若干難易度が高く、上記②は論文式試験対策用の演習書であることから、基礎講座受講生は、民事訴訟法の授業が全て終了して基礎を固めたのちに、これらに挑戦されればよいかと思います。

 なお、予備試験の短答式試験対策用のインプット教材としては、条文・判例や伝統的通説の立場を確認することを優先すべきであることから、上記①よりも裁判所職員総合研修所監修『民事訴訟法講義案』(司法協会、三訂版、2016)(司法協会HP書籍紹介参照)の方が適しているものと思われます。

 なお、上記②『ロジカル演習 民事訴訟法』をテキストとした辰已の講義として、辰已専任講師・弁護士の福田俊彦先生による「民訴強化講義Just6時間」があります。非常に充実した内容ですので、ご検討頂ければ幸いです。