新型コロナウイルスのために延期された令和2年司法試験及び予備試験の実施日程が決まり、辰已でも司法試験New辰已全国公開模試、予備試験・総択(会場受験7/23(木)~)が実施され、短答式試験におけるご自身の現状の成績が分かってきているかと思います。そこで、本特集では、主に令和2年司法試験及び予備試験受験生を対象に、科目別に短答本試験直前期の底上げ策を紹介させて頂きます。また、現在、基礎講座受講中などで来年以降の司法試験や予備試験を目指される方にも今後の参考になるかと思いますので、是非ご覧下さい。
【総論】
短答式試験対策は、まず、各科目における基本的事項を押さえることを優先すべきです。これは、「司法試験の方式・内容等の在り方について」(平成30年8月3日司法試験委員会決定、法務省HP掲載)の「第2 短答式試験の在り方」の「4 出題の在り方」には、「短答式試験は、裁判官、検察官又は弁護士となろうとする者に必要な専門的な法律知識及び法的な推論の能力を有するかどうかを判定することを目的とするものであるが、その出題に当たっては、法科大学院における教育内容を十分に踏まえた上、基本的事項に関する内容を中心とし、過度に複雑な形式による出題は行わない。」と記載されていることから窺うことができます。
そして、どの科目においても短答式試験対策は、『司法試験&予備試験 短答過去問パーフェクトシリーズ』(辰已法律研究所)などの本試験過去問集を中心に学習されるべきです。なぜならば、本試験過去問類似の基本的事項に関する内容を問う出題が多くなされるからです。ただ、未だ基本的事項に関する知識が不十分で本試験過去問を解こうとしても全然解けない場合には、はじめは問題文を一読して直ぐに答えを見て確認するという方法でもよいかと思います。とりわけ、辰已の短答過去問パーフェクトシリーズは、解説部分の基本的事項を太字にするなどの工夫をして学習効果を高めておりますので、是非ご活用下さい。
また、短答式試験対策として基本書などを適宜参照されることは非常に有益ですが、短答式試験と論文式試験の双方に適した基本書は少なく、あるとしても分量が多くて通読し難いものがほとんどです。そこで、本特集では、各科目における短答式試験対策に適した基本書などを適宜紹介してまいります。なお、短答式試験対策に適した基本書の特徴は、①薄くて通読も比較的可能、②条文・趣旨・判例などの基本的事項に関する客観的な記述に徹している、③主要な学説の客観的な現状を記載しており著者の主観的な見解はある程度控えられている、④出版や最新の改訂からさほど期間が経過しておらず最新の法改正や判例に対応しているものかと思われます。
さらに、予備試験・総択は、本試験のシミュレーションと出題予想の観点から、是非受講されることをお勧めします。そして、受講後には間違えた問題を中心にしっかり復習して下さい。特に、正答率が高い問題を誤った場合には、当該問題のテーマに関連する本試験過去問をも踏まえて復習されると効果的です。
【憲法編】
司法試験及び予備試験の論文式試験対策用として、小山剛『「憲法上の権利」の作法』(尚学社、第3版、2016)、安西文雄・巻美矢紀・宍戸常寿『憲法学読本』(有斐閣、第3版、2018)、新井誠・曽我部真裕・佐々木くみ・横大道聡『憲法Ⅱ人権』(日本評論社、2016)などの現考査委員ないしは近時の考査委員経験者執筆の基本書を使用されている方が多いかと思われます。近時の憲法の論文式試験が考査委員の問題意識を色濃く反映した出題が続いていることから、これは妥当な選択かと思われます。
他方、基本的事項に関する内容を中心に出題される憲法の短答式試験対策として極めて有用なのは、芦部信喜『憲法』(岩波書店、第7版・高橋和之補訂、2019)(以下「芦部憲法」という。)です。
この芦部憲法は、①それほど文字数がなく、分かりやすい文章で書かれているため通読が可能であり、②とりわけ注の部分を中心に基本的事項に関する客観的な記述が充実しています。また、③当然本文は芦部先生の見解が多く記載されているものの、その多くは現在でも通説を形成しており、④1999年の芦部先生逝去後は、その門下生である高橋和之教授によって適宜補訂されており、常に憲法学に関する最新情報に接することが可能です。とりわけ、芦部憲法の注の部分の判例紹介は、旧司法試験以来、短答憲法の重要な素材とも言われております。
このように芦部憲法は、その全体について短答式試験対策に有用な情報ばかりであり、可能であれば短答過去問を解くのと並行して丁寧に通読された方がよいでしょう。
また、憲法は条文数が少なく、条文の素読が比較的しやすい科目です。そこで、条文知識が問われる総論・統治機構を中心に、条文の素読をするのも有益です。
さらに、学説対策としては、芦部憲法を読んだ後に、『条文・判例スタンダード1 公法系憲法』(辰已法律研究所、2016)などのいわゆる短答式試験対策六法で補充されればよいでしょう。