科目別・短答本試験直前期の底上げ策【刑法編】

 新型コロナウイルスのために延期された令和2年司法試験及び予備試験の実施日程が決まり、辰已でも司法試験New辰已全国公開模試、予備試験・総択(会場受験7/23(木)~)が実施され、短答式試験におけるご自身の現状の成績が分かってきているかと思います。そこで、本特集では、主に令和2年司法試験及び予備試験受験生を対象に、科目別に短答本試験直前期の底上げ策を紹介させて頂きます。また、現在、基礎講座受講中などで来年以降の司法試験や予備試験を目指される方にも今後の参考になるかと思いますので、是非ご覧下さい。

【刑法編】

 現在、刑法の論文式試験対策教材としては、新たに令和2年司法試験及び予備試験考査委員となられた橋爪隆教授執筆の『刑法総論の悩みどころ』(有斐閣、2020)の評価が高く、これを精読されている受験生の方も多いかと思います。もっとも、同書は、特定のテーマに対して深く鋭い分析をされており、論文式試験対策としては最良の教材であっても、基本的事項の内容について広く問われる短答式試験対策としては、別の教材を想定された方がよいでしょう。

 そこで、短答式試験対策に適した基本書を探してみますと、知識の網羅性を重視するのであれば、やはり、西田典之『刑法総論』(弘文堂、第3版・橋爪隆補訂、2019)、同『刑法各論』(弘文堂、第7版・橋爪隆補訂、2018)と思われます。特に西田先生の刑法各論は、旧司法試験時代から受験生の評価が高く、適宜改訂されて刑法各論分野をリードしてきた文献です。そして、西田先生の逝去後は総論・各論ともしばらく改訂がなされない状況でしたが、昨今、橋爪教授による改訂がなされ、短答本試験問題のいわゆるタネ本としての価値は増々高まっているものと思われます。もっとも、この2冊を合わせた頁数は1000頁以上になるため、試験直前期の通読は難しく、短答本試験過去問や短答式試験模擬試験で誤答した部分のみを読めばよいでしょう。

 また、短答本試験過去問や短答式試験模擬試験を解いた結果、刑法の知識不足等でかなり低い点をとってしまい何とかしたいという場合は、木村光江『刑法』(東京大学出版会、第4版、2018)を一気に通読されると効果的です。木村光江教授は、東京都立大学教授で、旧司法試験考査委員や司法試験委員会委員などを歴任されており、司法試験には精通されております。また、同書のはしがきには、「…予備試験、司法試験に必要かつ十分な知識を盛り込んだ。初学者も読者として想定されることから、択一試験に出題されることの多い論点も、網羅した。」と記載されております(平成29年の強制性交等罪新設等の法改正にも対応しています。)。さらに、総論と各論を一冊にして500頁弱でまとめられ、まず条文を記載し、次に著者の主観的な見解を控えめにした本文の後、重要判例の記述部分に色網掛けを施すなど、いわゆる短答式試験対策六法のように受験生にとって非常に使い易い内容です。

 なお、令和元年予備試験短答式試験刑法第12問では、平成29年の強制性交等罪新設等の法改正に関する知識が正面から問われ、今後も注意する必要があります。この点、井田良教授が著書の『講義刑法学・各論』(有斐閣、2016)の補遺を執筆され、非常に優れた内容となっています。下記の有斐閣HP当該書籍紹介で閲覧できますので、是非参考にして下さい。

・井田良『講義刑法学・各論』(有斐閣、2016)(有斐閣HP書籍紹介)

http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641139176