新型コロナウイルスのために延期された令和2年司法試験及び予備試験の実施日程が決まり、辰已でも司法試験New辰已全国公開模試、予備試験・総択(会場受験7/23(木)~)が実施され、短答式試験におけるご自身の現状の成績が分かってきているかと思います。そこで、本特集では、主に令和2年司法試験及び予備試験受験生を対象に、科目別に短答本試験直前期の底上げ策を紹介させて頂きます。また、現在、基礎講座受講中などで来年以降の司法試験や予備試験を目指される方にも今後の参考になるかと思いますので、是非ご覧下さい。
なお、現在、司法試験短答式試験には、行政法、商法、民事訴訟法、刑事訴訟法はありませんが、適宜、論文式試験対策情報も掲載いたしますので、司法試験受験生の方も是非お読み下さい。
【商法編】
商法の会社法の分野については、確かに条文知識が頻繁に問われます。しかし、短答式試験対策において、会社法の条文を素読や短答式試験対策六法全部を潰そうとするのは、あまり学習効率がよくないと思います。なぜならば、会社法の条文は膨大な量があり素読しようと思って途中で挫折する可能性が高く、また、条文構造が複雑で素読だけでは内容を理解できない場合が多いからです。そこで、会社法の短答式試験対策のインプット教材としては、条文知識を適切にまとめた基本書に求めることになるかと思います。
会社法の基本書としては、髙橋美加・笠原武朗・久保大作・久保田安彦『会社法』(弘文堂,第2版,2018)を使用する受験生が増えてきているかと思います。同書は、現行司法試験と予備試験の過去問をすべて精査した上で執筆されており、また、本文のほか充実したコラムや条文ガイドも付され、さらに、同書P.509~515の「敵対的買収とその防衛策」(令和元年・同2年考査委員(出題委員)の久保田安彦教授執筆)が令和元年司法試験論文式試験民事系科目第2問設問2の素材と考えられるなど、数少ない短答式試験と論文式試験の双方に適した基本書といえます。既に同書を使用している方は、同書を読みながら短答本試験過去問を並行して解いて学習されるとよいでしょう。なお、同書P.196~9「[COLUMN⑰]直接取引および間接取引の範囲」は、飛び地のように考査委員の久保田教授が執筆しているので、司法試験及び予備試験論文式試験対策として注意した方がよいでしょう。
上記のように、髙橋美加ほか『会社法(第2版)』は、短答式試験と論文式試験の双方に適した基本書ですが、現時点で同書を使用しておらず、短答式試験の模試で会社法分野について低い成績と取るなどして、短答知識のインプットが急務の場合には、神田秀樹『会社法』(弘文堂、第22版、2020)を使用されるとよいでしょう。同書は、論点に関する言及が少ないことから論文式試験対策としては若干物足りないものの、その条文・判例の網羅性・正確性などから、短答式試験対策としては最強の一冊です。なお、同書の掲載の株式会社法の歴史や令和元年改正情報などは、直接令和2年の短答式試験に関係しないので、適宜読み飛ばして構わないと思います。
なお、『2020年(令和2年対策)司法試験&予備試験 短答過去問パーフェクト5 民事系商法』(辰已法律研究所)には、平成18年から令和元年までの商法の全本試験過去問が掲載されています。その中で185問が会社法からの出題とされていますが、その内の81問が機関からの出題で全体の約44%に当たります。そして、索引まで含めた神田秀樹『会社法(第22版)』の総頁数は452頁で、その内の117頁が「第3章第6節 機関」で全体の約26%に過ぎません。このように、会社法の短答本試験問は機関からの出題が多く、さらに、コストパフォーマンスもよいので、まずは、機関を集中的に学習するのもよいでしょう。
次に、商法総則・商行為法と手形法・小切手法の分野ですが、短答式試験対策に有用な基本書としては、丸山秀平『基礎コース商法Ⅰ 総則・商行為法/手形・小切手法』(新世社、第4版、2018)がお薦めです。同書は、この分野について、図表を交えながらわかりやすく解説されており、「第1編 商法総則・商行為法」が146頁、「第2編 手形法・小切手法」が135頁でまとめられており、分量的にも丁度良いかと思われます。
もっとも、本試験においてこの分野での数は少ないため、まずは会社法の対策を優先させるべきでしょう。また、手形法・小切手法は、そもそも理論的に難しい部分が多く、旧司法試験経験者でなければ捨問にするという選択もあり得るかと思います。
なお、この分野において、司法試験及び予備試験論文式試験に出題される可能性がある論点として、旧司法試験でも出題された「名板貸」(同書P.39~41)、会社法との関連として「利益相反取引規制と手形行為」(同書P.177~9)などがありますので、一応注意しておいた方がよいかと思います。